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肌を撫でるようなその綺麗な声は、

黄泉の底に一番近い、闇を呼ぶ声。






※竜と市について考えてみる。最後看取ったりしたんだから、少しくらい竜が気にかけていたらいいと思う。続きは折りたたみ↓↓

拍手[0回]

その女と対峙した時、一瞬にして戦う意思が途切れた。
正しくは削がれた、というべきか。
その女はあまりにも無防備で、
あまりにも従順で、
あまりにも生きていなかった。

「…貴方が、独眼竜…?」

か細い声がして、
闇に溶け込むような艶やかなな黒髪が、はらりと肩から零れ落ちた。
女は動かなかった。
「…てめぇが、」
だからその分距離を詰めたのは自分からだった。
「魔王の、妹か」
女は小さく頷いて、あまりにも生きていないその瞳で安らかに微笑む。
「…貴方が、市を、殺してくれるの…ね?」
それは本当に穏やかな笑みで。
正直、気持ちが悪かった。
「…てめぇを殺す気はねぇ」
呟けば、途端に深い絶望が女の表情を包み込んで、
動くのも億劫だとばかりに女は立ち上がる。
そして自分に伸ばされた手を、避けることが出来なかった。

「…感じる、貴方の…深い闇」

女の声音は、酷く、嫌な記憶と重なった。
「貴方が何をするのか、…市は知らないけど」
すぅっと頬を撫でる優しいそれでいて冷たい指先。
「でも…気をつけて、ね?」
その指は離れて、女は一歩、また一歩と下がり闇に融けていく。


「市みたいに…大切な人…愛している人を、…喪くさないように」


最後の女の顔は、泣きそうな笑顔だった。

……………

手にした刀で空を一閃する。
夢見が悪い朝はいつもあの女と対峙した時のことが蘇る。
ほんの少しの時間だったが、まるで昨日のことのように鮮明に刻まれているのだ。
その声も、表情も、触れられた指の感触も。
「…政宗様、一休みされてはいかがですか」
答えず更に一閃。
梅雨の湿った空気のように、曖昧な何かがずっと付きまとっている。

「…梅雨の長雨も、止まないことはありますまい」

次の一閃に構えたところで、耳に入る右目の声。
これは自分がやめるまで動くつもりはないという意思表示なのだ。
「…分かったよ、」
息を吐き出して刀を下ろし振り返ると、縁に穏やかに笑う右目が座って居た。
その横に座って、後ろに手をつき曇天を見上げる。

「…そうだな、梅雨も明けねぇわけじゃねぇしな」

それすらも振り払って、自分は前に進まねばならないのだから。
背中をこの右目に任せ、民も誇りもすべてを背負って突き進んでいくと決めたあの時から。
自分のことにはやたらと聡い右目は、

「嵐が来れば、梅雨も終わりましょう」

とだけ、答えて目を伏せた。

……………

「…どく、がん…りゅ、う…?」

あの女の最後を見届けた時、
この曖昧で梅雨の長雨のような因果は最初に対峙したあの時から始まっていたのだと思った。



「―――…喪くさねぇ、何も…ちゃんと見ていやがれ、…魔王の妹」
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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