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蔵出し…

2012年5月23日『恋文の日』記念で書いたお話。
この日は、『キスの日』でもあるらしく両方混ぜようとした結果こうなった。。。
大体政宗様に良くも悪くも色々吹き込むのは、慶次かアニキか成実か綱元さん(!?)の四択(笑)
今回は慶次のターン。



※戦国小政。続きは折りたたみ↓↓

拍手[2回]





「小十郎、いいか?」

そう言って襖を開けた時、慌てて振り返った小十郎が手元の何かを隠したことに政宗は気付いた。
「…はっ、何かございましたか?」
居住まいを正す小十郎に、政宗はヒラヒラと手を振った。
「いや、大したことじゃねぇんだが…前田の風来坊が明日には発つらしいから何か持たせてやってくれ…と思ってな」
小十郎の向こうに何があるのか背伸びをして覗きながらそう言うと、小十郎はいつもと変わらぬ様子で「承知」と一言答えただけだった。結局、隠したものが何なのか分からないまま政宗は座敷に戻ることになった。
「なんだなんだ、そんな面して」
小難しく考えたままの表情で戻ってきた政宗を見上げて慶次が言う。
「ちょっと気になることがあってな…」
「ふぅん?」
視線で気になることとは何なのか知りたいと言わんばかりの慶次に気付いた政宗は先手を打つ。
「明日発つまでに、何か見繕わせる」
「お、悪いねぇ」
「そのまま戻るってわけじゃねぇんだろ?」
「足を伸ばして謙信のとこでも行こっかなぁ」
風の吹くまま気の向くままの慶次を見て政宗は苦笑する。あの変わり者夫婦の苦労が少し分かった気がした。
「で、気になることってのは、右目のお兄さんのことかい?」
誤魔化しきれなかったか、と政宗は小さく舌打ち。小十郎の座敷に行くと出て言って難しい顔で帰ってきたのだ、想像に難くない。
「…あいつ、俺が顔を出したら急いで何かを隠したんだ」
「何かって何?」
「それが分かりゃ苦労はねぇ…確か文机に向かって何かしてたみてぇだが…」
それを聞いて、慶次は何かに思い至ったのか手の杯の酒を一気に煽って、身を乗り出してくる。
「…何だよ、」
「それなら、大方予想はつくな…」
「なっ…!」
そしてにやにやと慶次は笑う。そんな慶次に目を眇める政宗。
「風来坊、うちの右目に何吹き込みやがった…」

「ま、ま、楽しみにしてなって!悪いようにはならないからさ」
どうやら口を割る気はないようだ。
「shit!今日はもうお開きだ、酒がちっとも旨くねぇ」
そうして慶次を客間に追い払う。半端に残った酒をどうするか考えていると、片付けにでもやってきたのか小十郎が顔を出した。手際よく下げていく小十郎を見ながら、脇息にもたれて政宗は問う。
「お前さっき座敷で…」
「…はい?」
「…いや、やっぱいい、何でもねぇ」
そう視線を逸らす。小十郎はその様子に苦笑して、立ち上がる。
「風来坊に持たせるものをいくつか考えたのですが…ご相談させていただいても?」
「あぁ、」
「ではすぐに戻ります」
そう言って、酒を回収し一旦退出した小十郎はすぐに戻ってきた。そして政宗の対面に控えているが、一向に相談とやらが始まる気配がない。
「小十郎?」
さすがに不審に思い声を掛けると、小十郎は懐から文を取り出した。
「…先程、政宗様が小十郎の座敷にいらした時に何を隠したのか…そう、聞きたかったのではございませぬか?」
「…あ、いや、」
小十郎が政宗のことをお見通しなのは昔からだ。脇息にもたれて誤魔化すように視線をそらすのは隠し事をしている時の典型的な仕草だが、小十郎はそれを政宗に言わない。小十郎としても、小十郎の座敷での不可解な様子で大体のことは気付いている。
「風来坊は、なんと申しておりましたか?」
そう問われ、政宗は慶次の言葉を思い出す。

『ま、ま、楽しみにしてなって!悪いようにはならないからさ』

全く参考にならない。
政宗が難しい表情になると、文を手にした小十郎が政宗との距離をつめてきた。
「今日は…恋文の日、だそうで。よくある語呂合わせなのでしょうが」
「…それ、」
小十郎は苦笑する。

「恋文など、慣れぬもので手間取ってしまい…政宗様を悩ませることになろうとは」
なるほど、だから今日でなくてはならなかったのか。風来坊がお開きに異を唱えず引いたのも、見計らって小十郎が片付けに現れたのも。すべては風来坊の采配通り…というのが癪だが。残りの距離を縮めたのは政宗だ。
「それ、読んでみろよ」
見上げれば、小十郎は困ったような戸惑ったような表情をして。恋文をしたためていたあの時も、小十郎はこんな表情をしていたのだろうか。そう思うと自然に笑みが浮かんだ。
「…いや、いい」
そう言って小十郎の首に腕を回す。
「したためるくらいなら、口で言えよ…小十郎」
「…やはり、貴方には敵いませんね」
そっと恋文置いて、小十郎は優しく口づけた。

後日、風来坊を見送り座敷に戻った政宗は、小十郎からの恋文を開いた。ただその内容があまりにも真摯で耳の先まで真っ赤にする羽目になる。その時不意に風に混じって風来坊の笑い声が聞こえた気がした。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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