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触れそうになった口唇に、


ゆっくりと目を開けて問う。
てめぇにその覚悟はあるか?と。

「ねぇ、独眼竜、俺様にある覚悟はひとつだけだよ、知ってるくせに」

忍は口唇を寄せたまま笑う。

「知ってて言ってるに決まってんだろ、バーカ」

口許を歪ませて笑えば、結局忍の口唇は触れることなく離れていった。
右目に向かって何かをしている背中を眺めてからまた目を閉じる。
肌を撫でる風はいよいよ冷たくなって。だってそれは傍に体温がないから。
狸寝入りのつもりが本当に意識が攫われていく。
意識を緩やかに掬い上げたのは手に触れた熱。
漸く落ち着いたのかと呆れながら瞼を上げれば、未だ腑に落ちない表情を残した右目と目が合って。
それだけで機嫌は悪くなかった。

「…なんて面してんだよ、小十郎」

笑って頬を撫でたら、少しだけその表情が和らいだ気がした。
「ここに居ては風邪を召されます」
促されたがそう簡単に起きるつもりはなかった。
それは普段感情的にならないこの男のいつもと違う表情をもっとみたいなんていう欲で。

(俺にしかしない、見せない、小十郎の表情…)

それは自分だけが知る表情なんだと思いたくて。

(…なんて、口にしてやらねぇけど)

だから応える代わりに、まるで抱っこを強請る子どものように腕を伸ばす。
「起きれねぇ、」
右目の反応をひとつも逃すまいとして。
「政宗様、」
「お前が連れてけ、俺の寝床に」
すると右目は困ったような表情をして。
「政宗様、そのようなことを」
「お前じゃなきゃ、俺は動かない」
ふざけているわけじゃないと、落ち着いた声で言えば、
右目は少し思案してから背中と膝裏に手を差し入れた。
手をしっかりと首に絡めて、強かな腕にすべてを委ねた。
幼い頃からこうしたことは多く、抱っこされているのは珍しいことではない。
廊下で女中たちが微笑ましく見送るのに笑みを返した
(それからすぐに小十郎が咳払いして、女中たちは慌てて去っていった)。
そうして座敷に近づいたところで不意に右目が口を開いた。

「…気付いておいでか、」

そんな呟くような言葉にゆっくりと間を置いて応える。

「どれだけ一緒に居ると思ってんだ」

その言葉に右目はただ苦笑した。
座敷について閉じた襖を足で開けたら、おとなしくしてください、と窘められたから知らん顔をした。
布団の上にそっと身体を下ろされたが、首に回した腕は解かなかった。
「政宗様、手を」

「このまま行くのか?何もせずに、」

右目が動きを止める。
いつもだったらこんなことを言えば、呆れた声で小言がすぐに返ってくる。
だが本当に必要としている時はちゃんと気付く。
殊の外この右目は自分には鋭い
(そんなことを言おうもんなら、それこそどれだけ一緒に居るとお思いかなどと言われるに決まっている)。
それに加えて縁での一件。
また冷静な表情の内側で暴れだしそうな感情を抑えこんでいるのだろうか。

(…そんな必要がどこにある…)

「なァ、小十郎」

しっかりと目を合わせると、少しの躊躇いの後優しい接吻が与えられた。
離れたはずの腕がしっかりと身体を包み込んで。
くしゃくしゃと右目の髪を撫でたら、何も言わずに額を合わせてきた。


「右目を気遣うのは主の役目だからな」


と笑って言えば、右目は困ったように笑った。







※昨日の反動か甘甘。右目がすごいヘタレに見えるのは気のせい…ではない(爆)

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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