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記憶の浅瀬 柒

呆然と政宗が去っていく背中を見ていることしか出来なかった。
背中が自分を拒んでいる、そう小十郎は分かっていた。

今、“右目”は必要ない

そう言われた時、ドクンと一際大きく心臓が跳ねた。

(見抜かれた、と思った)




※双竜両思いになるまでの話。もだもだするシリアス(?)なので注意!続きは折りたたみ↓↓

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傍に居ろ、と言われて口をついて出そうになった言葉は飲み込んだ。
そして、こうあるべきだとその言葉をすり替えたのだ。
でもその言葉の真意に政宗は気づいて、応えた。
小十郎とは違い、言葉をすり替えることなどせずに。

『―――…俺は、違う』

と、政宗は言った。
既に政宗の姿も見えなくなった廊下の先を見つめたまま、小十郎は強く拳を握る。
ずっと心の奥底に疼いているこの焦燥感は何物か。

(そんなこと、疾うに気づいていた)

今まで感じなかったこの不安は何によるものなのか。

(その理由は思い知っている)

昔と今と違うもの。
それは主だと慕っていた政宗への感情、想い。
守ると決めていた、ずっと傍に居ると。
今でもその思いは変わらずに小十郎の中にある。
けれど、それとは違う、それと同じくらい…否、それ以上に心を焦がす程の強くて大きな感情に、想いに気づいてしまった。

『お前は自分の痛みに鈍いんだ。ちゃんと自分と向き合えよ、意識的にな』

かつて政宗に言われた言葉だ。

(確かに、これは…痛い)

自分は痛みに慣れすぎて鈍くなっていた。
痛くても見ない振りで何とか抑え込もうと、傷自体をなかったことにしようとした。
けれど、意識すれば胸の奥が痛くて辛くて仕方ない。
自分が政宗に対して言った言葉は、何て鋭い刀であったか。
それは自分の心も政宗の心も深く斬りつけた。
自覚すれば止まらないもので、政宗が水に沈んだあの時、心が冷えた。
主を失う、そんなことじゃなく「愛しい人を喪う」という恐れだ。
「…右目でなければ、傍に居てもいいのか」
先刻の政宗の言葉にそんな屁理屈など、いつもの自分らしくないが。

(あなたに感化されたのでしょうな)

けれど、政宗を追うにはこれ以上十分な理由は必要あるまい。
そう思い、小十郎は心を整理するように落ちた文書を拾い整理すると、政宗の座敷へとゆっくり歩き出した。

………

ザザ。
寄せては返す波の音。
政宗は両手で耳を塞いだ。
聞きたくない。

(夢なんて見たくねぇんだ)

強く目を閉じて、心に厚い厚い蓋をする。
小十郎は傍に居てくれる。
“良かったじゃねぇか”自分の内側で自分が嘲笑う。
生涯、死ぬまで小十郎は“傍にいる”と言った。
けれど、“そんなのは違う”と叫ぶ自分も居る。
小十郎が居るのは、右目としてじゃないか、と。

(けど、そう言ったあいつに俺が何を言えるってんだ)

『今、“右目”は必要ない』

我が儘っ突き放したのは政宗自身だ。
夢は見たくない。
でも小十郎と向かい合うのも怖い。

(何で、こんなことに)

「景綱、」
耳に入ってきた名前。
それを呼ぶ声。

(これ、は…喜多の声だ)

キツく閉じた目を開けて、両手を離す。
目の前には向かい合って座る二人。
政宗の予想通り、正面に座っているのは喜多だ。
小十郎は背中を向けている。
政宗は小十郎の背後に立っているような形だ。

(…なんだ、これ)

政宗にこんな記憶はない。
だとしたらこれは何だ?
政宗は黙ったままその光景をみている。
「あなたはこれから梵天丸様にお仕えするのです。誰もが敵に回っても、あなたは梵天丸様の味方でなくてはなりません」
あの方に敵は多い、といつになく神妙な面持ちで喜多は言う。
「あなたにその覚悟はありますか、景綱」
喜多の静かな声に小十郎はすぐには答えなかった。
喜多も何も言わずに、小十郎が応えるのをじっと待っている。
「姉上」
漸く小十郎が口を開く。
「今の俺には、覚悟なんて大それたものはありません」
政宗はちゃんと考えて口にしようとする小十郎に気づいて、この夢を察した。

(これは、多分…いや、間違いなく小十郎の記憶だ)

小十郎の背中に手を伸ばしかけてやめた。
「けれど、梵天丸様のお傍であの方を見ていたいのです。笑った顔も怒った顔も、如何なる感情の一片たりとも見落としたくない。自分の意志で、傍にいたいと思うのです」
喜多は小十郎を見ながら少し驚いたような表情をして。
「それでは足りませんか、姉上」
喜多に問う声は今と変わらない小十郎の穏やかな声。
政宗は慌てて畳を蹴る。
そして喜多の傍で止まって振り返る。


「俺はもう、疾うにあの方に惚れ込んでるんです」


そう言った小十郎の表情が。
喜多を見ているはずなのに、視線が絡んだような錯覚さえして。

(お前は、いつもそうやって…)

そうやって、心を揺らすのだ。

何者にもできないことを、こんな容易く一瞬で。
「申し訳ありません」
耳元で聞こえた声に、政宗はゆっくりと瞼を上げた。
抱きしめられていて政宗からは小十郎の表情が見えない。
小十郎が何に対して謝っているのか、それともこれもまだ夢の続きなのか。
「ずっとあなたの為だと思ってきた。けれどそんなもんは建前で、本当はてめぇが怖かっただけなんです」
右目として在る以上に望んでしまった、と小十郎は抱きしめる腕の力を緩めずに言う。
それは、自身が主として在る以上に望んでしまったものと同じなのだ、と思う。

(何て遠回りだ)

そう苦笑して、政宗は小十郎の肩口に顔をうずめた。
「そして俺は、あなたに嘘をついた」

(あぁ、そうだな)

「今此処にいるのは右目としてではなく俺として、今度こそ嘘偽りなく応える。だからもう一度、もう一度だけ言ってはくれまいか」
小十郎の背に腕を回して言ったあの時の言葉を、もう一度政宗は口にする気はなかった。
だからその代わり小十郎の背に腕を回して。

「わざわざ言わなくたって、今、こうしてるのが応えだろ」

だから言わねぇよ、と笑ってやった。





完。

ようやく、二人の思いが一方通行でなくなった…
長い話にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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