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#06 「"呉崎種"」

暗闇の中。ただ暗いというだけなのに、出来ることが制限される気がする。手も足も自由なのに、それを動かそうという気が起きない。だから、ただただ、反芻する。

…何故、こんなことになったのか、と。

嘘は吐かなかった。吐くべきでないと思ったから。だが必ずしも信用されるかといえばそんなこともなく。だから自分は、この冷たい暗闇の中にいるのだ。
「上(ココ)」は優しい世界だ。限られた人間にとっては。大半の人間がどうでもいいのだ。生きようが死のうが、殺されようが。
種は心をの中で何度も非難した。
だがそれももう時間の問題だ。GUNSと思しき女性が、事務的な口調で種に言った。

「―――明日の日没、公開処刑が執行されます」

主語などなくても分かる。自分の命が明日の日没までだということ。種はここに閉じこめられた時に覚悟していた。「上」で罪を犯せば、まともな死に方は叶わないと。つい最近は、刑の執行で「下」に首が落ちたと聞いたばかりだ。
「…望んじゃだめ、」
生きたいと思って苦しむのは自分なのだから。

不意に静まり返った暗闇に規則的なバイブ音。
「…誰?」
着信は番号表示なしだった。種は恐る恐る携帯を取った。
「"呉崎種さんて、アンタ?"」
「はいっ…」
不機嫌な響きの声に反射的に返事をする。
「あ、貴方は…」
誰?と問おうとする種の声を男は遮る。
「"一度しか言わない、"」
種は次の言葉を待つように、じっと耳を澄ます。自然と携帯を持つ手に力が入っていた。
「"アンタは、生きたいか?"」
種は目を見開いた。まるで自分が考えていたことを見透かされたようだ。
「"もし生きたいなら…叫べ"」
「叫ぶ…?」
「"あぁ、あの眺めのいい場所で思いきり自分の意志を示せ"」
男が指すのは「天上」。リミットは日没まで。
「"俺たちはアンタの意志に応えてやる、どんなに危険なことでも"」
種が口を開いた時、既に電話は切れていた。かけ直すことはできない。種は番号表示なしの表示を眺める。
誰かは分からない、何故あんなことを言うのかも分からない。でも。種は携帯をしまって膝を抱える。彼は自分が無実だと知っているのだろうか。もしそうなら、信じてもいいのだろうか。

『"葬送屋(オクリヤ)"を知っているかい?』

不意に、誰かが言っていたのを思い出す。

『彼等はね、法以外の死を叶えてくれるんだよ』

法の支配から解き放たれる為の唯一の方法なのだと言ってはいなかったか。

『"俺たちはアンタの意志に応えてやる、どんなに危険なことでも"』

種は目を閉じて腕に顔を埋める。そうすることで、この闇夜をやり過ごそうと決めたのだ。

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・登場人物・
巽梗一郎(タツミコウイチロウ) age:25
→ハッカー。「上」で投獄されたところで、馨至に助けられる。それ以来馨至には協力してくれる。馨至のことを密かに尊敬している。

矢萩白兎(ヤハギハクト) age:25
→「上」では馨至の部下だった男。馨至の後を追って下りてきた。押しに弱く頼りないが、類い希な直感力を発揮する。通称・ウサギ(脩二の時のみ訂正する)。

呉崎種(クレサキタネ) age:19
→冤罪で処刑されそうになったところを葬送屋に救われる。明るく人懐こい。葬送屋に顔を出し何かと手伝ってくれる。密かに馨至が好き。

綾南奏(アヤミナミカナデ) age:27
→GUNS・01のナンバーを持つ、リーダー的存在。傍若無人でナルシスト。興味のないことは一切やらない。篤尋好き(アツコン)で「上」に連れ戻そうとする。

郁海アスカ(イクミアスカ) age:29
→GUNS・02のナンバーを持つ参謀役。我が儘な奏を上手く扱える人物。冷静沈着で、物事にあまり動じない。俊敏で接近戦向きな戦い方を得意とする。

柴温梓(シバタズサ) age:27
→GUNS・03のナンバーを持つ、盲目の女性。争いをあまり好まず、常に他のメンバーの補佐に回る。独特な訛りの醸し出す上品さと、余裕ある雰囲気を持つ。

望月夾夏(モチヅキキョウカ) age:29
→GUNS・04のナンバーを持つ、独特な言葉遣いの男。要領がよく、適度な力の抜き方を心得ていることに関してはGUNS随一。愛銃は「カラスアゲハ」。

軋木真皓(キシキマシロ) age:25
→GUNS・05のナンバーを持つ。無口で最低限の付き合いしかしない。命令は必ず遂行する器用さを持っている。比較的アスカには心を開く。通称・シロ。


・用語・
葬送屋(オクリヤ)
→元々織屋シュウジたちがしていた仕事。篤尋たちが引き継いでいる。法ではない何かでの死を望む人間の願いを叶える。基本的に大抵のことは引き受ける。請負屋。

3D(drew by draw dead)
→移動式の万屋・春日井多岐(カスガイタキ)のこと。銃から日用品から食料から扱うものは多彩。

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#05 「行動開始」

裏口裏道は悉く全滅。空いているとすれば正面突破くらい。だが、正面突破では「天上」まで時間がかかりすぎる。
「彼女が誰にも見つからずに、此処に来れたと思うかい?」
篤尋の発言は馨至の質問の答えではなかった。
「"上"に住めるなら相当の者だ、しかも彼女はかなりの世間知らずだしね」
「じゃあ、黙認で此処に来たってのか?」
馨至の言葉に篤尋は肩をすくめる。
「そこまでは。ただ、少なからずGUNSに流れてる可能性はある」
「狗が侵入を予想済みってわけか」
『GUNS』…この都市の頂点・指揮者直下の私兵。取り締まりと刑の執行、指揮者の意に沿わない事をしなければ大概のことは許される存在。厄介にも「上」で最も腕の立つメンバー故に軽視はできない。
「けどまぁ、これは大した問題じゃないよ」
「GUNS相手に随分余裕の発言だな」
篤尋は手を振って苦笑する。
「そうじゃなくて、侵入路の話。とりあえず、一番近い出入口とあとは正面からで大丈夫だと思う」
「侵入・退却不可なんじゃないのかよ」
馨至は置かれた蜜柑を指で弾く。
「執行直前なら問題ないよ」
刑の執行時は皆出入口を離れ天上に集まる。刑の執行を最優先にするためだ。その時なら気兼ねなく堂々と侵入できる、と言うのが篤尋の考えだ。
「脩二には時間稼ぎしてもらわないとね」
そう言葉を切って、篤尋は珈琲を飲んだ。そしてぼんやりと地図を眺める。

「―――…珍しく物思いだな」

馨至も珈琲を飲みながら言う。
「予想はしてたけど、いざ行くとなると憂欝にはなるよ」
今までは、処刑ではない方法での死を望む依頼ばかりだった。「上」に行くのも一人で十分。なるべくならと「上」を避けていたのは事実だ。だが、今回は公開処刑の場から少女を生きて救い出さねばならない。GUNS五人を考慮するなら三人でも足りないくらいだ。
「上」…そこはとても美しい世界だった。でもそれは不純物を排除した、漂白の白。あの日、篤尋と馨至は「上」を離れ「下(カレラ)」に下った。GUNSと刑事という席を放棄して。「上」と「下」が不干渉を暗黙の了解としていることを知っていたから。
「さて、…夕飯は何にしようか」
「魚」
馨至が即答する。
「実に幅広い回答で感謝するよ」
「秋刀魚、」
後ろから声がして、二人はその声の主を見た。
「…ってウサギが」
「白兎です、…って、何でこういう時やたらと耳聡いんですかっ!」
白兎の訴えを無視して、脩二は荷物を置くとソファーに倒れた。
「って言うか、基本的に篤尋さんの作るものって何でも美味しいですっ」
白兎の勢いに篤尋は笑って、
「じゃあ、夕飯四人分かな」
と席を立った。
「脩二のリクエストは?」
「蜜柑」
答えると、馨至が脩二に蜜柑を投げた。見てもいないのにそれを受け取って、両手で転がす。
「食いもんで遊ぶな」
馨至が咎めると脩二は身体を起こして地図の上に蜜柑を置いた。
「俺、正面?」
脩二は地図を覗く。
「そう、奏の相手」
「ゼロイチ、ねェ」
ナンバー01の所有者である「綾南奏」。GUNSリーダーの彼を脩二はゼロイチと呼ぶ。
「馨至、巽の対応は?」
「対象には今日中に繋げる」
「それでなんだけど、俺にやらせてくれないかな」
意思の確認役。その繋ぎによって結末が変わる、重要なプロセス。それは本来なら篤尋の仕事だ。
「…いいよ、」
篤尋は脩二に応じる。
その時誰もが、少なからずいつもと違う何かが起こりそうな予感を感じていた。

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#04 「作戦会議」

男はパソコンのキィボードを叩く手を止めた。すぐ脇の携帯が鳴り、手に取る。この携帯にかけてくる人間は限られている。表示された名前に、男は応じた。
「"…今いいか?"」
自分に気遣う相手のお人好しに笑って、男…巽は答えた。
「アンタからの用なら、よくなくたっていいって答えるさ」
巽の台詞に相手…馨至は笑った。
「"頼みがある、連絡を取りたい奴がいるんだ"」
「へぇ、犯罪絡み?」
「"鋭いな。呉崎種、明日の日没に天上で処刑予定だ"」
聞くなり巽の指はキィボードの上を流れるように動きだす。
「"明日の朝までに情報が欲しい"」
巽は携帯を肩で押さえながら答える。その視線は目の前のディスプレイに注がれたまま。
「引き受けた。…今夜中に送るよ」
「"…できるか?"」
「誰に向かって言ってんのさ、」
巽の偉そうな態度はいつものこと。だが今までもしっかりと役目はこなしてくれている。それに馨至は信頼できると認めている。
「"野暮だったな、…頼りにしてる"」
それ聞くと、巽は携帯を切った。
少女を送った帰途、篤尋はあえて避けていた道を選んだ。「天上」の見えるこの場所は、嫌でも自分のしていたことを、してしまったことを思い出すから。

『…此処は、綺麗すぎる』

篤尋はガキっぽいと自覚しつつも、「天上」を避けるように俯いて走り抜けた。そして自宅が見えると歩調を緩め息を整える。格好悪い姿は見せたくないのが、篤尋の本音だ。そんな自分に苦笑しながら家に入った。

「ようやくお戻りか、手間取ったな」

リビングに入るなり、馨至の率直な一言。
「ダダこねられちゃってね」
「帰りたくな~い、とか?色男は面倒だな」
馨至は笑いながら篤尋にお茶ではなく珈琲をリクエストした。分が悪いと悟った篤尋は話の矛先を変える。
「脩二は?」
「3Dを探しに行った、ウサギ連れてな」
馨至の言葉に篤尋は笑う。
「さすがだ、手回しが早い」
白兎の直感は篤尋もよく知っている。
「じゃあ、そっちは心配ないね」
篤尋が珈琲を入れている間に、馨至はテーブルに地図を広げる。
「繋ぐのも巽に任せた、後は」
篤尋が珈琲を置いた。
「僕の役目って話か」
篤尋は地図の侵入・退却不可箇所に珈琲を置き、更に足りない分を蜜柑で塞ぐ。
「何で蜜柑…?」
「脩二が食べたいって言ってたから」
にっこりと笑って篤尋は答えた。
「―――…で、篤尋さん」
馨至は地図から視線をあげて、篤尋を見た。

「どこから侵入(ハイ)るんだ?」

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#03 「天上」

通称・3D。食料から武器まで大抵のものは揃う移動式万屋のことを指す。気紛れに出没するため、場合によっては捕まえるが困難になる。だが不思議なことに直感でいとも容易く彼を捕まえることのできる奴を脩二たちは一人知っていた。矢萩白兎(ヤハギハクト)、馨至を慕う男だ。脩二がウサギと言うと静かに怒り訂正する…余談だが。
「あっ!脩二くーん」
幼く見えるが、実際は脩二の二つ上。だからといって脩二は特に態度を改めない。白兎もウサギと言われること以外はまったく気にしないようだ。
「馨至さんから聞いたよ、多岐さん探してるんだって?」
「あぁ、」
脩二は馨至の手回しの早さに感謝した。こういうことに関しても馨至には信頼がおける。
「今日はきっと日の入りと逆に回っているよ」
歩きだした白兎から一歩下がって脩二が歩く。成る程。白兎の進行方向は東区だ。午前に西区から回ったのだとすれば、ちょうど夕暮れ時には既に東区を回っているはずだ。
歩いていた脩二は不意に足を止めて見上げる。見えるのは切り取られた空と、「天上」と呼ばれる公開処刑場。「上」の人間たちの退屈しのぎに観覧席を設けられたそれは、一部囲いがなく、下からも処刑の様子が見えてしまう。
あの場所は、救世主の。
「この前の公開処刑、知っている?」
白兎が脩二に気付いて戻ってくる。そして「天上」を見上げる。脩二は思考を中断した。
「首が下に落ちたそうだよ」
"わざとだろうけどね"白兎は不機嫌な声で付け足した。
「…家族は…それを拾ったのかな、」
脩二はまた歩きだす。
「拾わないさ、」
白兎は脩二を追って並んだ。
「只の肉塊なのに」
脩二はあの夜の兄の冷たさを思い出した。あの場にあったのは、兄であった「もの」。
「…脩二くんさ、」
白兎が止まり、その声に脩二が振り返る。
「肉塊とか言わないでよ~(>_<)」
"当分お肉食べれなくなりそう…"と半泣きな表情の白兎。脩二は見ないフリをした。
「ウサギさ、よくそれで刑事やってたよな」
「白兎だよ、」
脩二は訂正に笑ってまた歩きだす。
「で、多岐さんはどっち?」

分岐で白兎に尋ねると、白兎は両方を少し睨んでから頷くと、迷いなく進んで行った。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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