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Ⅰ.「始まりのない」始まり 1 

平和だった人間の世界に異形の存在が現れたのは、溯ること数十年前。少数だった異形は時間の経過と共にその数を増し、人間の世界を侵し始めた。それに危機を感じた政府は、異形たちを混沌を抱いたもの「カオス」とし、それに対抗する術を模索し始めた。だが一般に使われる武器ではまったく歯が立たない上に、事に対する対応の遅さが裏目に出、「カオス」の数は手に負えないほどになっていた。「カオス」が何を目的とし、何処からやって来るのか定かでない為に政府の対応は常に後手に回る。政府に対する反感が強くなり始めたことが、対「カオス」計画の実行を余儀無いものとした。政府はその計画の総指揮に一人の男を抜擢。その男は、責任と非難を一身に受けその計画を実行。政府の思惑通りに、「カオス」の動きを封じたのである。一つの都市を丸まる犠牲にしたその計画は、「カオス」と人間との境界示す…『ボーダーライン計画』。よって、その隔離された都市を人々はこう言う。
 
“底”は“ボーダーライン”、と。


――――――9 years ago,Here is“BORDER LINE”.
 
「…一体、アタシに何の用だ?」
幸はウンザリしたような様子で応えた。
「“…元気か…?”」
受話器越しに聞こえる耳慣れた声が、また少し老けたと幸は思った。
「心配なら、顔でも見に来ればいいだろ?門前で追い返すけどね」
「“――――私は、ソコには行けない”」
気まずそうな返答に、幸は皮肉な笑みを浮かべた。
「…だろうねェ。“此処”にアタシを閉じ込めたアンタが、“底”に来れるわけがないんだ。」
それが、結果全て。
受話器越しの兄が、妹にした仕打ちだ。
各々の感情を抜けば、の話ではあるが。
「生憎、まだアタシは生きてる。こんな中に居るのに、狂うことさえなくね。でもすぐだ。アタシはこの世界の『退屈』に絶望して、『死の自由』を手に入れる」
「“…幸、”」
「どんな形でもいい。アンタの心に傷になってでも残るなら…それはそれで『倖せ』と言えるのかもしれないね。――――皮肉だけど」
そう言い、幸は先に電話を切った。
酷く、『退屈』していた。
 
先刻の電話で聞いた声をぼんやりと思い起こしながら幸はカウンターに座っていた。幸のやっているボーダーラインは開店してはいるがいつも通り店内はガランとしている。閉鎖以来すっかり人の入りが途絶えてしまった故だが、幸にとってそんなことは大した問題でもなかった。
「…よぅ」
「こんばんは」
それでも此処の常連と化している人も居る。それが、獅戯と冴晞だ。二人は閉鎖前からも良く顔を出していて、幸にしてみれば手の掛かるガキだ。幸は席を立ち、カウンターの中に入った。
「ちょっと早かったですか?」
「いいや、そうでもない」
煙草を咥えて幸はそう応える。二人が入って来た時、カウンターでゆったりしていたのを見て、冴晞は早く来てしまったのかと心配したのだ。幸は手際よく珈琲とココアを入れた。珈琲はともかく、ココアは珈琲が飲めない甘党の獅戯専用だ。
「…煩いな、」
まだ夜には一足早いというのに、外からは既に破壊音と獣の様な雄叫びが響く。
「…最近、此処らも騒がしくなってきましたね」
冴晞が窓の方を見て言う。こういった騒ぎはあったが、範囲が拡大しているのは最近だ。
「いつもの馬鹿連中の騒ぎだろうよ」
幸は呆れたように溜め息を吐いた。
「最近じゃあ一部が強そうな連中に声を掛けて、勢力拡大を図っているみたいですよ?」
“へぇ、”と感心した声を幸は上げる。そこで沈黙していた獅戯が口を開いた。
「お前は声掛けられたか?」
獅戯の言葉に、冴晞は苦笑して頷く。
「貴方は?」
対する獅戯も“俺もだ”と頷いた。
「それで此処に居るってことは、断ったのか」
「当然だろ」
「当然です」
二人は幸の言葉にほぼ同時に答えた。
「あんなくだらねェことするために、力があるわけじゃねぇだろ」
獅戯は手元のココアを飲んだ。
「けどあいつらを敵に回すのは少し厄介じゃないか?まぁ、数だけって点じゃカオスと大して変わらないし、お前らならそんな苦戦する相手だとは思わないが」
「そうですね、何より話にならないところとかは」
幸は冴晞の言葉に“辛口だね、お前は”と言って笑った。
「アタシとしては今のこの無秩序はなかなか嫌いじゃない。退屈はしないからね。だが…無意味な怪我人は増えてるな、馬鹿連中が調子づいてる所為で」
幸は困惑した表情になった。
「面倒は面倒だが、随分身体も鈍ってきてるし…軽く再起不能にしてこようか」
「アンタなら、心配するまでもなくやれるだろうな」
武器を持たずに“此処”で生きている幸の実力を獅戯も冴晞も知っている。獅戯は軽く笑って、椅子から立ち上がる。そしてドアの方に銃を向け、相手が見えた瞬間に撃った。
「だが、今は店のマスターなんだろ。アンタはマスターをやってればいい」
冴晞も遅れて立ち上がる。
「掃除くらいなら、僕らでもできますよ」
幸に向かってにっこりと笑うと冴晞はドアの方に歩いて行く獅戯を追った。
「あ、戻って来た時には珈琲とココアよろしくお願いします」
一度振り返りそう付け加えると、そそくさと店を出ていった。ドアが完全に閉まったのを見届けると、幸は棚に寄り掛かって思わず笑った。
「…ったく、あいつらは。血気盛んなのは、アタシ譲りかねェ」

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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