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Ⅵ.ストレイシープ 2

時間が経つにつれて、始めは騒がしかった店内が少しずつ落ち着いてくる。俺はこの時間帯が実はかなり好きだ。小さくなった雑音は、なかなかチャンネルの合わないラジオを聞いているような感じがして妙に落ち着くのだ。氷響をカウンターに座らせて、これまでの経緯を聞く。氷響は話下手というわけでもなかったが、自分の頭の中を必死で整理しながら話しているといった風だった。その中で、
俺たちは幾らかの要領を得た。
「――――というわけで、車に轢かれそうになった所を…こう、ふわぁっと」
「堕ちたってワケか」
話し終わった後も、氷響は腑に落ちない表情だ。どんなに整理しても訳が分からず、困惑しているのだと見て取れる。
「…でも、珍しいんじゃないですか?そんな所にアウトラインがあるだなんて」
「出来た、と言った方が自然だろうな」
獅戯の言葉に、全員の視線が獅戯を捉える。どういうことか、続きを促すためだ。その点、獅戯は大して動じた様子もなく、作業を続けている。
「最近“流離”が多いのと、関係あるんだろ」
「“流離”?」
その疑問を俺が補足する。
「“外”からの訪問者のことだよ。意志のあるナシ関係なく、“此処”に来ちゃった人のことね」
それを聞いて火滋が、面白そうに笑う。
「何だか、俄然興味湧いてきちゃいましたよ。“流離”とアウトラインの関係性なんて」
「火滋の習性みたいなもんさ。興味の度合いで動く」
俺の補足に、氷響が笑う。
「本ト、ちょっと変わってるかも」
「でもまぁ、僕の情報を必要としてくれている人は居ますからね。興味が薄くたって、やるべきことはちゃんとこなしますよ。信頼に関わることですし」
氷響が笑い、火滋はその反応に照れ臭そうに笑った。
その時、端の席から限が立ち上がった。
「…帰るのか?」
獅戯が抜かりなく声を掛ける。
「――――少し、風に当たってから、」
呟く限の声。俺はそれに便乗した。
「んじゃあ、俺が送るよ」
「…別に、」
「こういう時は素直に聞いとくもんよ?」
俺は限にいつもの笑顔を見せて、反対を無理矢理止めた。
「手ェ出すなよ」
獅戯がどこまで本気か解からないような言い方をした。限は確かに歳の割りに大人びている所為か綺麗だが、俺が女というより妹に近い感じで意識している為、手を出したことやそんな素振りすらも見せたことはない。それを獅戯が知らないはずはないのだが…多分。
「氷響ちゃんは、しばらく此処に居るといい。“此処”じゃあ一番安全な場所だし。何たって、凄腕のバーテンさんがいらっしゃいますから。解らないことがあれば、一番の情報屋である火滋に聞けば一発だ」
「はい、ありがとうございます、神津さん」
氷響は俺にそう言いつつ、後ろに立つ限を頻りに気にしてる様子だ。
「氷響ちゃん?」
氷響は意を決したのか、椅子から立ち上がると限の前に立った。限は表情を変えずに、氷響を見ている。俺は双方をちらりと見る。
「…あ、あのっ!限さん…その…仲良くなってもらえませんか!?」
勢いに任せて言い終わると、恥ずかしそうに俯いて小さくなる氷響。俺も火滋もその告白じみた言葉
に笑い、獅戯も表情を和らげた。ただ限だけが、慣れないのか戸惑った表情をしている。
「だってさ、」
限は一度俺を見た。そして、またその視線を氷響に向ける。
「――――限で、いい」
それが、限の応えだった。
「…話し方も、普通でいい。そういうの…あまり得意じゃないけど」
氷響はその言葉に表情をぱっと明るくして笑った。
「うんっ!」
つられる様に、限も微かに笑った。
「…さて、一大告白も見事両想いになったワケだし、そろそろ行くか」
俺の言葉に頷いて、限が歩き出す。俺はカウンターに座るみんなに手をヒラヒラと振って、限を追う様に歩き出した。
 
ボーダーラインを出てからしばし歩いて、俺は冷たく吹く風に首を竦めた。
「本ト、寒いな」
数歩先を歩く限の表情は見えない。そして、限の応えはない。
「――――怒ってる?」
「…別に、」
俺の質問にも限はそう呟いただけだった。沈黙が嫌だったわけではないが、俺は話の矛先を変えてみることにした。
「それにしても、氷響ちゃんは良い子だな」
氷響の名前が出た途端に、限を取り巻く空気が少し柔かくなったのは気のせいだろうか?
「…あんな子、初めて」
ぽつりと、限が言った。
「今まで向けられたことのないような、不思議な感情を真っ直ぐに向けてくる」
「…嬉しかった?」
「――――少し、」
戸惑いながら発された限の言葉に、俺はふっと笑った。
「…そう」
歩く速さが落ちた限に追いついて、今度は俺が数歩先を歩くことになる。
「あ、」
限の小さな声に振り返ると、その視界を蝶が過った。互いの視線はその蝶を追った。
「蝶か」
限はその蝶に向かってゆっくりと手を伸ばす。すっと伸びた綺麗な指先。その指に躊躇いがちに寄って来た蝶は、やがて羽を休めた。限は完全に足を止め、俺も止まっていた。冷たい風が、体温を攫っていく。その時俺は、蝶を見て思い出した。忘れていたわけではないから、思い出したというもの変なのかもしれないが。
「…そういや、あいつは蝶に好かれてたな」
限が表情を動かしたのがはっきりと解った。勿論、望んでいたわけじゃないが。すると、まるで蝶を振り払うように手を下ろした。
「…そんなことを言う為に、ついて来たの?」
「いいや」
俺は即答する。帰りがけに蝶に出くわすことなど予想できるはずがない。俺の即答に限は一度俺をじっと見て、そして早足で俺を抜き歩き去った。
そう、『偶然』蝶に出くわしたのだ。だから、『偶然』俺は思い出した。そして『偶然』口にした。ただ、それだけだ。だが。
「…全く、揺れすぎだよ、限ちゃん」
それでも、ちょっと悪戯が成功した様な感覚に俺は苦笑した。
「さてと、」
視界の脇で蠢くカオス。俺は落ちて来た眼鏡を直して、鎌を具現化させると一閃した。一振りによって起こった冷たい風。
「――――大丈夫ですか?お嬢さん」
向けた視線の先。そこには冷たい風にはためいたショールを直したひとりの女性が立っていた。俺はひとまず鎌を下ろし、彼女の方に歩き出す。すると彼女の方も俺の方に近付いてきた。
「…お嬢さん、って年齢でもないと思うのだけど」
彼女は微笑んでそう言った。
「…そうですか?」
お互いの丁度中間地点。俺はとぼけたように彼女を見た。
「でも、お姉さん、じゃあ格好つかないでしょ?俺が」
背後のカオスに気づいて、俺は彼女の腕を引いた。抱き留めるような体勢で、俺は鎌を一閃した。
「人の恋路を邪魔するなんて、とんでもな無礼者だなぁ」
ただの肉塊と化したカオスを笑わない目で一瞥した。
「…ありがとう」
俺から僅かに身体を離して、彼女はまた微笑んだ。
「でも、こんな安っぽい女にまで、そんな扱いの必要はないのじゃなくて?」
「安っぽいだなんて、とんでもない」
ひとつひとつの仕種。着ている物も、見せる表情も、選んで使う言葉も、安っぽい女では考えられないほどしっかりしている。そもそも、“此処”で生き残っている女は少ない。俺は鎌を解いたが、彼女の手を身体を離そうとはしなかった。
「…こんなに聡明そうな美人じゃあね。一体、俺に何の用です?」
彼女は俺の反応に、楽しそうに笑った。
「そんなに高く評価してもらえるなんて。じゃあ、私は殺されずに済むのかしら?」
今度は俺が笑った。俺は女と一晩を過ごした後、その女を消す。何だか癖みたいになったその行為を彼女は知っている様子。それ以外にも、一応『死神』の異名を持つ俺だ。どうやら、そっちの方面もご存知というわけか。
「…それじゃあ、色々とご存知なわけですか」
「でも…容易く殺される気はなくてよ?」
『死神』の腕に抱かれて逃れられないというのに、この堂々とした態度。俺はそれをえらく気に入った。他の女とは一味違うってわけだ。
「貴女が殺されるわけにはいかない理由と、俺への用は繋がっているのかな?…勿論、詳しく聞かせてもらえますよね?」
俺は、彼女を捉える手を腰に廻した。何を求めているか。それを彼女が理解できない人だとは思っていない。彼女はその行為に笑っただけだった。
「…説明なんて、後回しで構わないでしょう?“此処”の夜は短いと聞くわ」
その艶やかな笑みを浮かべる彼女の口唇に、俺は触れるだけのキスを落とした。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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