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雨が止むまで ( 後編)

それは今まで聞いたこともない、毒。

まるで去る気配がないのを特に咎められたりはしなかった。そうしてしばらく居座るうちに、分かってくることがある。年令の割に細いこと。特に働いている気配がないこと。だからどうと言うこともないのだが。

「――…品定めされてるみたいだ」

何故かその声に自虐的なものを感じ取った。灰猫は声をかけようとして止めた。
だから、それに気付いたのは本当に無意識。
「…なぁ、アンタ包帯なんてしてたか?」
灰猫の声に、月島は手を止め振り返る。そしてあの控えめな笑みで、
「…してたよ」
と答えた。そしてまた手を動かし始める。
「じゃあ何したんだよ、それ」
灰猫は確かと言えない違和感に、何とかして形を持たせたかった。少しでも確かなものにできたら。
「…言わない、」
その表情こそ見えなかったが、灰猫はまた笑っているのだろうと思った。

「言ったらきっと、…泣いちゃうから」

ダレガ?
ナニニ?
そう言われた灰猫は、それ以上深く詮索する事無く口を閉ざした。雨はまだ降り続いていた。
不自然に続く雨は今だに止む様子を見せない。天気予報も何だかぼやけて見える。心理的に雨が嫌いな灰猫は、猫だからかとくだらない理由付けをする。灰猫の少し離れたところに倒れている月島。自分よりも月島の方が雨がダメなのだろうか。

「…何、」

月島はゆっくりと目を開ける。灰猫は何も言わない。すると月島は珍しく少し意地悪な表情をした。
「そんなに包帯が気になる?」
灰猫は距離を詰めた。そして不機嫌な表情。
「―――俺からじゃないからな、」
灰猫は力なく上げられた腕を掴んだ。

その時の衝撃を何と言おう。

それは確かに腕だが、もはや腕などではない。熟れ過ぎたトマトを掴んだかのような感覚。掴んだ跡の残る腕。灰猫は反射的に手を引いた。

「腐っていくんだ、血の毒で」

血縁はみんなそれで死んだ、と月島は静かに言う。あと五年、三十になる前に自分もどこかで死ぬ。
「だから、誰かに居てほしかったのかもしれない…最期に、」
月島は頭を押さえて眉間に皺を寄せる。
「…ねぇ、君の本当の名前は?」
「――――雨嫌いの灰猫だよ、」
月島は力なく笑った。
「じゃあ、灰猫…雨が止んだら、居なくなって」
その声にも咎めるような響きはなかった。

「…あぁ、雨が止むまで居てやるよ」







end.

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雨が止むまで ( 前編)

その男は「灰猫(ハイネコ)」という偽名の、不思議な男だった。

あの夜は、夕方から降り始めた雨が本降りになり、かなり冷え込んでいたのを覚えている。
冷蔵庫を開けて昼買い物に行かなかったことを後悔し、雨の中閉店間近のスーパーに向かう。適当に朝の分まで買い物をして家に戻った。自宅のドアの前。手がかじかんで鍵を開けるのに苦戦していると、人の気配と共に腰に硬質な感触がする。振り返ろうとした時、擦れたような声がした。

「……俺を匿え、」

その声は力なく、酷く衰弱しているような気さえした。
月島は部屋に入るなり倒れこんだ男を見て、簡単なものを拵えた。何となく気分は捨て猫を拾ったようだ。男に拵えたものを差し出すと、やけに礼儀正しく綺麗に平らげた。そんな男の傍ら。月島は床に落ちた銃に気付いて拾う。
「―――…水鉄砲かよ、」
呆れて呟くと、男は寛いだ態勢で笑う。
「まさか本トに匿ってもらえるとは思わなかった」
「雨は冷たいからね、」
昔、かくれんぼをしていて置いていかれたことがあった。途中で雨が降りだして、本当に寒かった。雨が冷たくて。心まで染み込んで冷やしていく様で。
「…アンタ名前は?」
「月島、」
床を濡らされるのも、勝手に風邪を引かれるのも困る。月島は、濡れた上着を寄越せと手を伸ばす。男はその要求の通り上着を渡した。そして上着を干す月島の背中をじっと見ていた。
「…穴が開く、」
月島は素っ気なく一言。益々男の視線は興味深そうに月島を追い掛ける。
「随分親切なことで。もしかしたら本物持ってるかもよ?」
男は銃の形にした手を月島に向ける。月島は特に何ということもなく控えめに笑う。

「別に、死ぬことは、怖くないんだ」

男は向けていた手で頭を掻いた。
「…じゃなきゃ、不審者をホイホイ家にあげるわけないわな」
「君は誰?」
本来なら出会い頭で聞くべき言葉を月島が口にする。するとさして違和感もなく男は答えた。

「灰猫」

"…偽名だけど。"と付け足して。

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トリプルダウンアンソロジー★

僕は歩いている。しっかりと地面を踏みしめて、旅をしている。旅の理由はそんな大層なものじゃない。ただ漠然と、こう思ったから。

『このままじゃ、食費どころか生活費自体が底をつく』

危機感を持ったのはここ最近の話だが、ひとつの所に留まるのは危険だ。だから色んな都市や街を転々とし、ギルドの仕事をこなしている。僕一人ならさほど苦労はない。まぁ、書物欲しさに食を抜くことはままあるが。問題は。

「ししょ~★」

僕の後をついてくる旅仲間。将来有望と踏んで認めた僕の唯一の弟子だ。
おっと、自己紹介が遅れたが僕は小さいなりだが局地的には有名な魔法使いなのだ。

「何だかとってもいい匂い~(*´▽`*)v」

匂いにひかれてふらふらと歩きだす弟子。
「足元には気をつけ…」

「きゃんっ(>×<)」

「って言ってるそばから…」
僕は額を押さえてがっくり。普段は明るく元気なのだが、食物が絡むと人が変わったりする。以前に節約と食費をケチった時のこと、空腹に暴走し鎮火までに小一時間はかかった。あの苦い記憶は忘れない。それさえ気を付ければ幸いにも酷い目には遭っていない。だが、二人旅とは些か心許なくはある。雇うのは面倒だ。

「その辺に仲間にできそうな人落ちてないかなぁ…」

擦り剥いて尚、匂いの方向に進む弟子を止める。放したらどこまで行くのか興味は尽きないが、仲間を減らすのは避けたい。

「これ、使います?」

小瓶を渡してきた、ローブの人。研究者、か…?

「遠慮せず。薬師(くすし)なんですぐにまた作れますから」

薬師の言葉に甘えて小瓶を受け取り、擦り傷にかけてみる。

「ししょ~、痛くないです~」

瞬く間に傷が消えた。それを見て、ふと過る欲。

「もしかして、回復薬とか状態変化を無効化できる薬とか作れます?」

「薬師ですから、」

「モンスター避けスプレーとかライフボトルとかも!?」

「はぁ、薬師ですから」

薬師の手を握って上下に振り回す。見つけた!旅の仲間。

「一緒に旅しません?」

にっこり笑う笑顔に拒否権はナシ。

「研究好きなんスけど、大丈夫?」

「大丈夫っスΣd(≧∀≦)」
旅仲間は三人(一部強制)。以前より少しは多く稼げるかな?
その認識が甘かったことに気付くのはすぐ先の話。

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謐(シズ) かの森

その少女は、水の上に立っていた。
それはありえないはずの光景。
しかしそれは確かに、波紋一つ起こす事無く存在している。
少女は軽く目を伏せたまま、ゆっくりと一歩を踏み出した。

ポン…

ピアノの鍵盤を弾(ハジ)いたような音がした。するとそれに呼応するように、周りの木々がサワサワと音を立てた。

ポン…

少女はまた足を踏み出す。すると、違う音が広がった。ひとつ、ひとつ、音を確かめるように少女は水の上を渡る。
水面は不規則な波紋を描き、木々の囁きは波のように強弱をつけて音を後押しする。木々を揺らす風は、悪戯に少女のスカートを翻らせた。
すべての音が合わさって、少女はそれを耳にしながらまた足を踏み出す。
揺れる木々の隙間から、眩しい光りが差し込み水面に反射した。

そう。

そこはまるで、舞台のように。

やがて少女は足を止め、優雅に一礼。木々は一際大きく揺れる。
そして揺れの治まったそこには、

ただ謐かに湖が横たわっていた。

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monochrome

「それすらもう、戯言ってことで」

奴はそう、ケタケタと、笑った。


僕が奴と初めて接触してから、既に一年が経とうとしている。
決まったように夜に活動する奴が、白昼何をしているのか知らない。(どうせ、碌なことはしていないんだろうが)
どこに住んでいるのかも、いくつなのかも。(見た目から察するに、僕と同い年…もしくはいくつか下と言ったところか)
だからといって不自由することはなかったし、そもそも奴の懐に入ろうとも思わない。
誰かの懐に入るということは、少なからずこちらも干渉を許さねばならないと思っているからだ。
誰かに干渉するのも面倒だし、何より干渉されるのは一番嫌い。
だから、奴の距離の取り方に便乗した「この間柄」はなかなか嫌いじゃない。

「お、また来やがったか」

大体遅れて行くのは僕の方だ。(そもそも待ち合わせなどしていないのだから、遅れるというのは変な言い方だ)
そんな僕を、奴はいつも興味深そうに眺めて、ケタケタと、笑う。まるで、今日初めて出会ったと言わんばかりの反応で。
本当は興味なんて持っていないに違いない。そんな奴には見えない。
だけど、気づかないフリをして僕は軽く応える。

「帰り道に、お前が居ただけだ」

会いに来たわけじゃない、と一応意思を示しておく。
だが奴はまた、ケタケタと、笑っただけだった。
奴にとって、そんなことはどうでもいいらしい。かく言う僕も、そんなことはどうでもいいと思う。(意味のない気を遣ってしまった)

「さて今日は、何の話をしてやろうか」

両手をポケットに突っ込んで、足元の小石をける。正直なところ、とても何かを話して聞かせてやろうという姿勢ではない。
だが、あえて沈黙を守っていると勝手に奴は話し始めた。

「お前、この世界どォ思うよ」

答える前に、奴は続ける。どうやら奴は答えを求めて問いているわけではないらしい。(非常に紛らわしい)

「俺は実に嫌いでね、だから俺は世界を殺そうと思うわけだ」

本当に簡単に言うから、できる気がしてくる。奴なら、何なくやりそうだ。

「で、どうする?」

視線が僕を捉える。今度はちゃんと意見を求められている。だが、意味がわからない。

「どうするって、何が?」

僕の答えに、奴は「またまた~」と手を振りながら笑う。ケタケタと、笑う。
正直、どうでもいい。世界が殺されようが、世界に殺されなければいい。(それくらい僕にはどうでもいい)恐らく、奴も本当はどうでもいいのだ。

「お前みたいなウザい顔してる奴、初めてだ」

相変わらずケタケタと、笑いながら奴は距離をつめる。まるで、逃がすまいとするように。(その実奴は何も考えていないに違いない)

「この世界そのものがウザいって表情、」

僕は無意識に挑むような眼差しを向けていたらしい。奴が退く。

「お前、俺にそっくりだ」

奴の言葉に虚を突かれた。まさか、奴からそんな言葉が出るとは。周りなんて気に止めるはずがないと思っていたのに。それに、

「―――冗談だろ、」

奴があまりにも。
あまりにも真剣な声を出すから。動揺しなかったと言えば嘘になる。だから、それを誤魔化すように笑う。奴を真似て、ケタケタと、笑う。

なるほど、よく似ている。

「俺の言ったこと、マジだと思った?」

奴の声がいつもの調子に戻っていた。

「それすらもう、戯言ってことで」

奴はそう、ケタケタと、笑った。

「んじゃ、俺帰るわ」

その時、もう二度と奴に会うことはないだろうと思った。(そもそも意図的に会おうとしてたわけじゃないが)

「あぁ、」

僕は止めない。
奴も止まらない。
距離が離れていく。
それでも構わなかった。
そんなことはどうでもいい。
きっと奴もどうでもいい。奴の姿を追わずに、踵を返す。急に寒さを思い出したからだ。

あぁ、やはりよく似ている。

口元が微かに緩んだのを自覚する。その時、微かに聞こえた気がした。奴がケタケタと、笑う声が。

奴は本当に世界を殺すだろうか。自分を殺そうとする世界を相手に。

『それすらもう、戯言ってことで』

本当に戯言だ。
寒い夜はすべての音を吸い込んで、そして初めから何もなかったかのように世界を塗り替える。
奴もいない。
僕もいない。
じゃあ、僕らは出会わなかった?
いや、それこそが戯言だ。

だから僕は待ち続ける。
いつしか奴が、世界を殺す日を。



end...?

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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