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花冠をと思ったけど、

それよりも一枝の花の方がきっと良く似合う。
そうお前が言ったこと、覚えてるか?

「よっ、慶次~」
「慶ちゃ~ん」
老若男女問わず楽しげな声と、その名を呼ぶ声と聞こえる。
その声に応えるように踊り手は益々鮮やかさを増し、盛り上げる。笛の音に爪弾く弦の音。
豪奢な衣装に身を包み慶次は、
思わずため息が漏れてしまうほど華やかに舞を踊っていた。
慶次は祭りと喧嘩を好み、
明るくお人好しで誰にでも好かれる質である。
どこで舞なんて覚えたのか知らないが、
それは人々を魅了するには十分すぎるほど。
前に出ることをせず人々に紛れてその舞を眺めていると、
ふわり振り返る慶次と目が合った。
一際優しく慶次は笑い、斜め前に立つ娘は頬を赤らめた。

「…ばーか…」

そう声には出さず口で伝え、
くるりと踵を返して人の輪を抜け出した。

踊り手に誘われるように集まっているせいか、
通りの人はそこまで多くはなかった。
しばらく軒先を覗きながら歩いていると、近づいてくる駆け足。
歩調を緩めて振り返れば、案の定そこに慶次がいた。

「政宗、もう帰るのか?」

「…や、そういうわけじゃねぇけど」
少しの休み時間にわざわざ追い掛けてきてくれた慶次に、
らしいなと思う。
「みんなアンタの舞を楽しみにしてるんだな」
話に聞いたことはあった。
それが嘘だとも思わなかったが、
あれほどまでに人を魅了するものだとは思わなかったのだ。
だからそれを知り好んで舞を見ている花街の人間が少し羨ましく思った。
そうしたら、あの人の輪が少し居心地が悪くなった気がした。
「…すげぇ、綺麗だったぜ?」
素直に感想を述べれば、
珍しいことに慶次は口元を手で押さえて視線を外す。
「……そういう不意打ち、困る」
「は?」
慶次の呟きに首を傾げれば、
「そりゃ、好きな人が見てるとなりゃ張り切るだろ」
と言われた。
そして慶次は何か思いついたように自分の髪に差していた花飾りを抜いて、
耳の上あたりに慣れた手つきで差した。
「…何だよ、これ」
眉を顰めて問う。
慶次はそれに答える代わりにふわりと優しく笑って。


「……すげぇ、綺麗」


擽るように毛先を指で遊んで。首もとがこそばゆくて仕方ない。

「―――恥ずかしいのはどっちだよ…」

そう苦笑して言っても、今の慶次には効きそうにない。

「案内するよ、花街は俺にとっちゃ庭だ」

そう言って手を引かれる。
「おい、これ差したまま人混みは…」
「分かってるって」
振り返り愉しそうな笑顔を向けられては止める気も失せる。
手を引かれるままに歩きながら、
少しだけ強く慶次の手を握り返した。






※風来坊の舞を一度見てみたい。風来坊が竜の髪に花を差すのが書きたかっただけ。

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この喉の奥にまとわりつくのは、

呑み込んだ言葉の数だけ拡がった錆。

こんなに自分は弱かったろうか。
膝を折るほど脆かったろうか。
沸き上がる感情の波を押し殺せずに嗚咽を洩らしてしまうくらいに子どもだったろうか。
答えがあるのかも解らない自分の内に問い掛けても返る言葉はなく。
どうしようもなく泣きたくなることがある。

「…コホン」

小さく咳き込んで、押さえた手に落ちてきたのは喉の奥から剥がれ落ちた錆のようなもので。
それは一度瞬いたら跡形もなく消え去っていた。
その手を握り締める。

「―――何だ、物思いなんて珍しい」

近くの木に降り立ち腕を組んでいるかすがの姿に驚き(外見的には全くいつもと変わらないが)、
握り締めていた手をヒラヒラと振った。
「物思い?冗談でしょ、そんなの俺様のがらじゃないって」
ヘラヘラと笑ってみせたが、かすがは更に訝しげな表情をするばかりだった。
「言っておくが…」
そうかすがは一度目を伏せ、

「お前の手に落ちたものは何もなかった」

とだけ言って踵を返す。
その背を沈黙で見送ってヒラヒラと振った手で頭を掻いた。
忍でありながら忍ではない彼女は、時折酷く冷めた目で忍らしく口を開く。
見抜く。
言い当てる。

「…ホント侮れない女だよ、お前は」

呟いて上田への帰途につく。
忍として口を閉ざす度に、本音を呑み込む度に喉の奥がどんどん凍り付いて。
いつしか言葉を素直に吐き出すことすら苦痛になって。
「…ゴホ、」
咳き込むと落ちるのは錆付いたかの日の言葉。

屋敷の庭に音もなく降り立つ。

「…佐助、戻ったのか」

それなのに、いつもこの子どもだけは気付く。
誰にも気付かれぬように気配を消しても、だ。
「佐助?」
近づいてくる紅に、突然また咳き込みそうになって慌てて口元を押さえる。
「具合でも悪いのか!?」
腕をしっかりと掴む手。
「…顔が、真っ青だ」
心配そうに見上げる紅を見ていたら何だか泣きたくなって。
口元から手を離すとその手で紅を抱き締める。
驚いて息を呑んだのが分かった。
こんならしくもない自分は珍しいから、戸惑っているのかもしれない。
「佐助、」
今は少しだけ何も言わずにこうしててくれないかな。
すぐにいつもの自分に戻るから、もう少しだけ。

「大丈夫だ、佐助」

紅はゆっくりとそう言って背中を抱き返してくれる。
いつもは加減を知らない力任せの手が、心地よい強さでもって背中を軽く叩く。
「なぁ、佐助…気付いていたか?」
楽しそうに弾む声。

「今日は七夕だ」

そう言えば、昔からこの手の行事ごと好きだったんだっけ。
そう思ったら何だか笑いが込み上げてきて。
落ち込んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。

(…今顔上げたら泣き笑いしてんだろうな…俺)

「綺麗に空は晴れているぞ」
そう紅は笑って。
「…じゃあさ、もっと近くで見ようよ、旦那」
紅が答えるより早く、紅の身体を担いで屋敷の屋根の上に降りる。
見上げた空は確かに綺麗だった。
月明かりに泣き笑いな表情を見た紅は、
「何だ、そんなに泣いて喜ぶほど嬉しいのか」
と何も知らないように言い、それに対して訂正を入れる気もなかった。

(…わざわざ心地よい空気に水を差すこともないだろうしね、)


「―――…そうだよ、旦那と一緒にこうしてるのが嬉しいんだよ」


そう率直に言えば、びっくりしたように見上げる紅の表情が変わっていく。
すっかり赤くなって目を逸らされたのは、きっと自分の気のせいではあるまい。






※書きながら何を書きたいのか見失った…。
えぇ、七夕は付けたしです。旦那はそういうの好きそうだから(笑)

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その立ち上る白煙にすら、

胸に焦燥感を抱き。

時折主は煙管を手にしながら物思いに耽る。
一月に数えるほどだが、そう物思いに耽る時は決まって何を言っても聞こえないのである。
何がその心を煩わせているのか問うたこともあったが、やめた。
心総てに立ち入る権利が自分のどこにあろう。

澄んだ青空の下、
開け放たれた襖の向こうから入ってくるのは夏を感じさせる乾いた風。
心此処にあらず、といった様子で外を眺めている主の傍で黙する。
手にした煙管から立ち上る白煙は、この物思いの理由を知っているのだろうか。
不意に心をざわつかせる何かを感じとって軽く目を伏せる。
すると、止まったままの空気が揺れて。
主が自分の方に視線を流しながら笑っていることに気がついた。

「――――…如何なされました?」

そう問えば主は更に笑みを深くし、コンコンと煙管の灰を落とした。

「そりゃこっちの台詞だぜ?小十郎」

まるで心のざわめきを見透かしたような言葉。

「こいつ(煙管)を手にしてる時は、いつもそうだな」

そう目を遣った煙管は、以前骨董屋で見つけたものだった。
一見高価なものには見えないが、
よく見れば細かい細工が施されている、竜、の形をしていた。
そしてその右目には主と同じように傷が入っていた。
店の主人によれば、その傷が煙管の値打ちを下げてしまっているとのことだったが、
それを気に入った主はその煙管を大事に使っている。
取り出す手つきはいつも優しく、どこか愛しんでいるような気さえした。

「白煙が、嫌いか?」

主の問いに軽く首を振る。
「煙管を手にしている時はいつも」という台詞に、分かりやすい自分に苦笑した。
黙していると、主はまた愉しそうに笑って。

「…じゃあ、お前を構わないのが嫌、か?」

まったく、何とも答え難い問いかけをしてくる。
苦笑したまま答えずに居ると、その視線が同なんだと促してくる。

「……何が、その心を煩わせているのか、まるで小十郎だけが知らぬような気がして…それが少し歯痒いのです」

主と同じ傷を持つ煙管。
無機物にそんなことが分かるはずもないと、そう知っていて尚。

「俺ももうガキじゃねぇ、自分で答えを出さなきゃならないこともたくさんある」

お前の手を煩わせたくねぇ気持ちも。
そう言って、煙管を置いた。

「けどな、本当に答えが出ねぇ時は…背中を押してもらいたい時も、か…そういう時は言うようにしてる」

それだけ信頼し、預けているつもりだ。でなければ、右目の名を赦すまい。
と真摯な声で言うから。
まるで一人焦っていた自分が馬鹿馬鹿しく思える。
自分が思っているよりももっとずっと主は考え成長している。
ただ無邪気だった頃とは違う。

「だからな、…こんなモンに妬くな」

そう言いまた愉しそうに笑う主に、

「…そうですね、その小竜には戦場で貴方の背をお守りすることは出来ますまい」

そう言い返して。
それすらもまるで張り合っているように響いて、「…お前らしいな、」と主は苦笑した。

冷静で小言ばかりの右目とて、たまにはこんな風に感情を率直に出すのも悪くはない。









※たまには右目だってやきもきすればいい。その姿に、きっと主人はご満悦なんだろうが。

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あの頃の自分は本当に幼い子どもで。

でも、不意に足を滑らせて傾いだ身体を支えてくれた腕は
今も、此処に。

まだ初夏にもなっていないのにとんでもない暑さ。
手で風を送っていた手は、やがて団扇に変わった。
すっかりやる気も削がれて、
文机に積み重なっている書物の束に正直吐き気がする。
足を伸ばしてどうしたものか思案していると、
通りかかった女中が伸び放題な髪を軽く結ってくれた。

(…少しは涼しくなった…)

空は澄み、閉じこもっていることに退屈を感じ始めている。
強い日差しは苦手だが、ゆっくりと重い腰を上げた。

(そういえば…)

こんな暑い日には、よく覚えている思い出がある。

『梵天丸様!』

あの頃の右目は、今の自分と同い年くらいだろうか。

(いや、もういくつか下か)

その割にはやけに落ち着いていたような記憶がある。

(ジジくせぇなんて言ったら、怒るんだろうな…)

口許に笑みを浮かべて、強い日差しの下を走る。
城のすぐ近くを流れる川は広さの割には浅く、近所の子どもたちの格好の遊び場だ。
川に近づくに連れて子どもたちのはしゃぐ声が大きくなる。
不思議と走る速度は速くなって、子どもに混ざるように川へ降りた。
草履を脱ぎ捨てて、水の中に入るとすぅっと暑さが引いていくような気がした。
自分の腰程度までしかない背丈の子どもたちを相手に足で水を掛け合う。

(…あの時も、跳ねる水がすげぇ綺麗に光ってて、)

「政宗様!」

聞きなれた声に反応して振り返ろうとしたら、水底の石に足をとられた。
「あ、」
背中から倒れていく身体を支えたのは。

「…小、十郎」

息を整えながら苦笑する小十郎を見上げる。

『梵天丸様、足下に気をつけなければ』

幼い頃の、暑い初夏の記憶。

「政宗様、足下に気をつけなければ」

少し呆れたような気配さえ含んだ声音に、笑う。
「…昔を思い出した、」
幼い頃こうして川につれてきてもらったことがある。
見るものすべてが綺麗で輝いていて。
夢中になって遊んだ。
そして後ろから呼ばれた声に振り返ろうとして不意に足を滑らせた。
背中から傾いでいくその身体をこうして支えてくれたのは小十郎だった。
まだ頬に傷などない、青年だった頃の。
「…貴方は、あの頃からちっとも変わっておりませんね」
すぐ勉強をサボる癖も。
そういつもの小言が降ってきて顔を顰める。
「暑いのが好きじゃねぇのは、お前も知ってるだろ」
「えぇ、ですから戻ったら一休みにしましょう」
そういって背中を押される。
自分の足で立つと、小十郎はゆっくり先を歩いていく。
その背中に笑い、空仰ぐ。

手で遮ってもなお強い日差しに目眩がした。









※今日、暑かったからね。着物の裾をぬらしながら遊ぶ主に、呆れながら世話を焼く右目。

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主従とっかえ生き残りゲーム②

幸村と小十郎の場合


※小政・佐幸前提、政+佐・幸+小の話その②
なんか色々とあってキャラ崩壊してるし恥ずかしいので折りたたみ↓↓

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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