monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
君が、…君が、
好きだよ。
「この馬鹿者っ!!」
佐助は過去に幸村を庇って大怪我を負い、こっ酷く怒られたことがある。
「だからね、旦那、忍は主を守ることがお仕事なんだって」
その為に命を落とすことは仕方の無いことで、
役目を全うした人間に怒るというのは筋違いな気がする。
だが、何年経っても幸村はそれを理解しない。
自分の怪我は棚に上げて、佐助の怪我を傷を思う。
だから佐助はいつしか理解してもらうことを諦めた。
ただし、なるべく傷つかないように、
死なないように幸村を守ろう、と自分より幼い主に譲歩して。
『さすけー』
佐助の後を追ってきた幼い主は、いつしか大人になって
(中身に関してはあまり変わっていないのだが)
何でもかんでも佐助を呼ばなくなった。
その背中を追ってくることもなくなった。
保護者として兄として幸村を見守っていた佐助は
それに少なからず寂しさを感じ、 また同時に自分の中で目を伏せていた感情を自覚する。
「…旦那、好きだよ」
いい加減目を背けてもいられなくなった感情を口に出せば、
幸村は屈託の無い笑みを佐助に向けて、
「俺も好きだ」
と答える。
その度に佐助は妙に自分の心がざわつくのを知っている。
幼い頃から幸村を見ているのだ、 どんな性格なのかは他より理解していると思う。
だからこそ幸村が自分の向ける言葉の意味に気付いていないことは良く分かっていた。
「…お前のその明らさまな態度に気付かないとはな…」
傍から見れば分かりやすい態度だそうだが(佐助本人もそうだと思っている)、
幸村当人が気付かなければ意味はなく。
佐助はそれが容易いことではないと知っていたから、諦めた。
「待つのは嫌いじゃないからね、傍に居て守って、俺も死なないで、気付いてくれるのを待ってるよ」
(…望み薄かもしれないけどね)
日々鍛練に勤しむ幸村の背に、佐助はそう呟いた。
それが良くなかった。
そう気付く時は案外早く来た。
ゆっくりと重い瞼を持ち上げ、佐助は屋敷に居ることを認識した。
咽返るような血の匂いも、そこら中に倒れる屍もない。
ただ、あるのは。
「さ、す…け?」
幸村にとって佐助が居ることは当然でそれが日常で、
その普通がいかに脆いのか気付いていない。
(俺が居なくなったら…どうなるんだろ)
戦場に居れば不思議と何度もそんなことを佐助は考えた。
でも幸村を困らせることはしたくなくて、 試してみようとは思わなかった。
(でも…結果的に、これは…そうなっちまったの、かな)
今にも泣きそうな表情で自分を見下ろす幸村に。
(…なんつー情けない表情してるんだよ、旦那)
佐助は麻痺したままの手を伸ばす。
「…勘弁、してくれよ…旦那」
軽く頬を撫でたら、涙が大粒の雨のように落ちて。
「…冷たくて、…かなわない、って…」
無理に笑おうとすると身体が軋んで、佐助は巧く笑えなかった。
きゅっと引き結んだ口。
佐助は幸村に怒られるのかと、怒鳴られるのかと思った。
戦場で我慢した分も含めて。
でも幸村は言葉を選ぶように、 口を開いたかと思えば噛み締めたりを繰り返す。
「旦、「―――…生きた、心地が…しなかった」
そう、堪えたような幸村の声。
(失うなんて…考えたことは一度も無かった、)
幸村は自分の手を白くなるまで握りしめる。
(いつも傍に居て、呼んでくれることが当然だと)
幸村にとっては考えるまでもなく、それが当たり前すぎて。
「…すまない、佐助」
佐助はその時漸く幸村とちゃんと向き合った気がした。
「…旦那、俺、旦那のこと、好きだよ」
幸村が戸惑ったように口を開く前に、 幸村の頭を引き寄せて触れるだけのキス。
それに気付いて幸村が絶叫するのは、それから数秒後。
茹蛸以上に顔から耳まで真っ赤にする幸村に、 佐助は前途多難だと小さく嘆息した。
君が、君が。おしまい。
ようやくスタートラインについたかな、と。
現在進行形で忙しいコケシさんに、救いのある忍と紅を捧ぐ。
「この馬鹿者っ!!」
佐助は過去に幸村を庇って大怪我を負い、こっ酷く怒られたことがある。
「だからね、旦那、忍は主を守ることがお仕事なんだって」
その為に命を落とすことは仕方の無いことで、
役目を全うした人間に怒るというのは筋違いな気がする。
だが、何年経っても幸村はそれを理解しない。
自分の怪我は棚に上げて、佐助の怪我を傷を思う。
だから佐助はいつしか理解してもらうことを諦めた。
ただし、なるべく傷つかないように、
死なないように幸村を守ろう、と自分より幼い主に譲歩して。
『さすけー』
佐助の後を追ってきた幼い主は、いつしか大人になって
(中身に関してはあまり変わっていないのだが)
何でもかんでも佐助を呼ばなくなった。
その背中を追ってくることもなくなった。
保護者として兄として幸村を見守っていた佐助は
それに少なからず寂しさを感じ、 また同時に自分の中で目を伏せていた感情を自覚する。
「…旦那、好きだよ」
いい加減目を背けてもいられなくなった感情を口に出せば、
幸村は屈託の無い笑みを佐助に向けて、
「俺も好きだ」
と答える。
その度に佐助は妙に自分の心がざわつくのを知っている。
幼い頃から幸村を見ているのだ、 どんな性格なのかは他より理解していると思う。
だからこそ幸村が自分の向ける言葉の意味に気付いていないことは良く分かっていた。
「…お前のその明らさまな態度に気付かないとはな…」
傍から見れば分かりやすい態度だそうだが(佐助本人もそうだと思っている)、
幸村当人が気付かなければ意味はなく。
佐助はそれが容易いことではないと知っていたから、諦めた。
「待つのは嫌いじゃないからね、傍に居て守って、俺も死なないで、気付いてくれるのを待ってるよ」
(…望み薄かもしれないけどね)
日々鍛練に勤しむ幸村の背に、佐助はそう呟いた。
それが良くなかった。
そう気付く時は案外早く来た。
ゆっくりと重い瞼を持ち上げ、佐助は屋敷に居ることを認識した。
咽返るような血の匂いも、そこら中に倒れる屍もない。
ただ、あるのは。
「さ、す…け?」
幸村にとって佐助が居ることは当然でそれが日常で、
その普通がいかに脆いのか気付いていない。
(俺が居なくなったら…どうなるんだろ)
戦場に居れば不思議と何度もそんなことを佐助は考えた。
でも幸村を困らせることはしたくなくて、 試してみようとは思わなかった。
(でも…結果的に、これは…そうなっちまったの、かな)
今にも泣きそうな表情で自分を見下ろす幸村に。
(…なんつー情けない表情してるんだよ、旦那)
佐助は麻痺したままの手を伸ばす。
「…勘弁、してくれよ…旦那」
軽く頬を撫でたら、涙が大粒の雨のように落ちて。
「…冷たくて、…かなわない、って…」
無理に笑おうとすると身体が軋んで、佐助は巧く笑えなかった。
きゅっと引き結んだ口。
佐助は幸村に怒られるのかと、怒鳴られるのかと思った。
戦場で我慢した分も含めて。
でも幸村は言葉を選ぶように、 口を開いたかと思えば噛み締めたりを繰り返す。
「旦、「―――…生きた、心地が…しなかった」
そう、堪えたような幸村の声。
(失うなんて…考えたことは一度も無かった、)
幸村は自分の手を白くなるまで握りしめる。
(いつも傍に居て、呼んでくれることが当然だと)
幸村にとっては考えるまでもなく、それが当たり前すぎて。
「…すまない、佐助」
佐助はその時漸く幸村とちゃんと向き合った気がした。
「…旦那、俺、旦那のこと、好きだよ」
幸村が戸惑ったように口を開く前に、 幸村の頭を引き寄せて触れるだけのキス。
それに気付いて幸村が絶叫するのは、それから数秒後。
茹蛸以上に顔から耳まで真っ赤にする幸村に、 佐助は前途多難だと小さく嘆息した。
君が、君が。おしまい。
ようやくスタートラインについたかな、と。
現在進行形で忙しいコケシさんに、救いのある忍と紅を捧ぐ。
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君が、…君が、
傍に居る。
派手な戦い方は出来ない。
それは勿論、忍という立場として。
(…そうじゃなかったら、旦那みたいに一掃するのに)
姿を隠して一人、また一人と命の灯を摘んでいく。
ふと辺りを見回して立ち尽くしている旦那の姿を見つけた時、
もう殆どが終わったのだと確信した。
「…け…」
自分の名を呼ぶ声。
二度三度、繰り返すたびに不安を滲ませて。
なんて、愛しい。
無意識に口許が緩んだのを、きゅっと引き締めて近づく。
その途中だ、旦那の背後に気配を感じたのは。
(…気付いてないっ…!)
完全に油断している。
速度を何段階も上げて、咄嗟に背後に立った。
その時は、他に追った怪我も傷もその存在自体を忘れた。
「さす、」
思い出したのはそれからすぐ後。
肩と脇腹にまともに矢が刺さってから。
いつもなら得物で軽く弾くのに、完全にミスった。
これは自分も油断してたって、証拠かな。
力が抜けていく身体を辛うじて得物で支える。
膝をついたら、ボタボタと大粒の血が音を立てて落ちた。
あ、倒れる。
それはまるでスローモーションみたいに、
ゆっくりと地面に吸い寄せられるような感覚。
「…っ、佐助ェェェェっっ!!!」
悲鳴みたいに響く声に、落ちそうな瞼を持ち上げる。
視界いっぱいに入るのは、
自分よりも真っ青な顔をした子ども。
「…旦、那、…平気?」
声が震えたことには目をつぶる。
今にも泣きそうな表情で頷く旦那の柔い茶色の髪を軽く撫でた。
「…最後、まで…気、抜いた、ら…だめ、で、しょ…」
本当に困った主人だなぁ。
きっと傷を負ってても口に出さない旦那だから、
せめて目の手の届く場所だけでも怪我が無いか確かめたくて。
何度も何度も触れていたら、
「―――…帰るぞ、佐助…」
ぎゅっと力の入った手。
引き結んでいた口からこぼれた言葉に頷く。
言いたいことあるんだろうな。
怒っているんだろうな。
でも、それを全部我慢して。
(…少しは大人になったねぇ、旦那)
あ、でも鳥は使えそうにないな、旦那一人くらいだったらひとっ飛びなのに。
そう言ったら旦那は何も言うなと制して、
戦場では一度も外したことのない鉢巻きを外していた。
旦那だって怪我してないわけじゃないのに。
未だ血の滴る箇所をきつく縛って止血してくれる。
(…暖かい…)
完全に寄りかかる身体をしっかりと支える腕。
愛しい温もりを感じながら、
少しずつ意識が暗闇に堕ちていく。
あぁ、このまま死ねたらなんて幸せなんだろう。
君が、君が。次が最後。
今回は佐助の話。
派手な戦い方は出来ない。
それは勿論、忍という立場として。
(…そうじゃなかったら、旦那みたいに一掃するのに)
姿を隠して一人、また一人と命の灯を摘んでいく。
ふと辺りを見回して立ち尽くしている旦那の姿を見つけた時、
もう殆どが終わったのだと確信した。
「…け…」
自分の名を呼ぶ声。
二度三度、繰り返すたびに不安を滲ませて。
なんて、愛しい。
無意識に口許が緩んだのを、きゅっと引き締めて近づく。
その途中だ、旦那の背後に気配を感じたのは。
(…気付いてないっ…!)
完全に油断している。
速度を何段階も上げて、咄嗟に背後に立った。
その時は、他に追った怪我も傷もその存在自体を忘れた。
「さす、」
思い出したのはそれからすぐ後。
肩と脇腹にまともに矢が刺さってから。
いつもなら得物で軽く弾くのに、完全にミスった。
これは自分も油断してたって、証拠かな。
力が抜けていく身体を辛うじて得物で支える。
膝をついたら、ボタボタと大粒の血が音を立てて落ちた。
あ、倒れる。
それはまるでスローモーションみたいに、
ゆっくりと地面に吸い寄せられるような感覚。
「…っ、佐助ェェェェっっ!!!」
悲鳴みたいに響く声に、落ちそうな瞼を持ち上げる。
視界いっぱいに入るのは、
自分よりも真っ青な顔をした子ども。
「…旦、那、…平気?」
声が震えたことには目をつぶる。
今にも泣きそうな表情で頷く旦那の柔い茶色の髪を軽く撫でた。
「…最後、まで…気、抜いた、ら…だめ、で、しょ…」
本当に困った主人だなぁ。
きっと傷を負ってても口に出さない旦那だから、
せめて目の手の届く場所だけでも怪我が無いか確かめたくて。
何度も何度も触れていたら、
「―――…帰るぞ、佐助…」
ぎゅっと力の入った手。
引き結んでいた口からこぼれた言葉に頷く。
言いたいことあるんだろうな。
怒っているんだろうな。
でも、それを全部我慢して。
(…少しは大人になったねぇ、旦那)
あ、でも鳥は使えそうにないな、旦那一人くらいだったらひとっ飛びなのに。
そう言ったら旦那は何も言うなと制して、
戦場では一度も外したことのない鉢巻きを外していた。
旦那だって怪我してないわけじゃないのに。
未だ血の滴る箇所をきつく縛って止血してくれる。
(…暖かい…)
完全に寄りかかる身体をしっかりと支える腕。
愛しい温もりを感じながら、
少しずつ意識が暗闇に堕ちていく。
あぁ、このまま死ねたらなんて幸せなんだろう。
君が、君が。次が最後。
今回は佐助の話。
君が、…君が、
見えない。
むせ返るような血の匂い。
敵をすべて凪ぎ払った後、
戦場に立っていたのは自分だけだった。
「佐助っ…」
名を呼べども佐助は姿を現さなかった。
だから、繰り返し不安を滲ませながらその名を呼ぶ。
遠くに居るだけかもしれない。
まだ見えないところで戦っているのかもしれない。
「さす、」
咄嗟に感じた気配に振り返る。
見慣れた佐助の背中。
ほっと安堵の息をついたのと同時。
そね身体に突き刺さる幾多の矢。目の前で人が刺されるなど、
何度も見てきた光景のはずなのに。
ドクン、ドクン。
こんなにも心音が煩くて、
こんなにも心が冷えていく。
大型手裏剣で支えた身体からボタボタと雨粒のように血が落ちて、
やがてそれはグラリと地面に倒れた。
「…っ、佐助ェェェェっっ!!!」
はっとして抱き起こすと、
血の気のない顔が自分を安堵させるように笑って。
「…旦、那、…平気?」
言葉が出なくて頷くと、
力の無い手がくしゃりと優しく髪を撫でた。
「…最後、まで…気、抜いた、ら…だめ、で、しょ…」
世話の焼ける主人だなぁ。
と、困ったように笑う。
無事を確かめるように何度も何度も手で触れて。
「―――…帰るぞ、佐助…」
口にできたのはそれだけだった。
言いたいことはいっぱいあった。
怒ってやりたかった。
でもそのどれもすることはできずに。
ただ、佐助はゆっくりと頷いた。
あ、でも鳥は使えそうにないな、旦那一人くらいだったらひとっ飛びなのに。
こんな状態でもおどける佐助を制し、鉢巻きを解く。
佐助の負っている傷も酷い箇所も、
一つや二つではないのだ。
鉢巻きをきつく縛って止血をしながら、
何とかその身体を引き摺って歩きだす。
「…しっかりしろ、佐助…」
仲間と合流する頃には、
既に佐助は意識を失っていた。
「幸村よ、狼狽えるでない」
たしなめられた言葉も今日ばかりは頭に入らない。
屋敷に着くなり大急ぎで医療班に連れていかれた佐助を追う。
今は、少しでも離れることが怖い。
「…幸村様、」
声を掛けられたときには既に医療班は下がっていた。
部屋の隅でうずくまっていた身体を引き摺り、
佐助の傍らに腰を下ろす。
「…早く、目を覚ませ…」
立てた片膝を抱えて、強く目を閉じる。
口をついて出た言葉は小さな小さな祈りの言葉だった。
君が、君が。続きます。
今回は幸村の話。
むせ返るような血の匂い。
敵をすべて凪ぎ払った後、
戦場に立っていたのは自分だけだった。
「佐助っ…」
名を呼べども佐助は姿を現さなかった。
だから、繰り返し不安を滲ませながらその名を呼ぶ。
遠くに居るだけかもしれない。
まだ見えないところで戦っているのかもしれない。
「さす、」
咄嗟に感じた気配に振り返る。
見慣れた佐助の背中。
ほっと安堵の息をついたのと同時。
そね身体に突き刺さる幾多の矢。目の前で人が刺されるなど、
何度も見てきた光景のはずなのに。
ドクン、ドクン。
こんなにも心音が煩くて、
こんなにも心が冷えていく。
大型手裏剣で支えた身体からボタボタと雨粒のように血が落ちて、
やがてそれはグラリと地面に倒れた。
「…っ、佐助ェェェェっっ!!!」
はっとして抱き起こすと、
血の気のない顔が自分を安堵させるように笑って。
「…旦、那、…平気?」
言葉が出なくて頷くと、
力の無い手がくしゃりと優しく髪を撫でた。
「…最後、まで…気、抜いた、ら…だめ、で、しょ…」
世話の焼ける主人だなぁ。
と、困ったように笑う。
無事を確かめるように何度も何度も手で触れて。
「―――…帰るぞ、佐助…」
口にできたのはそれだけだった。
言いたいことはいっぱいあった。
怒ってやりたかった。
でもそのどれもすることはできずに。
ただ、佐助はゆっくりと頷いた。
あ、でも鳥は使えそうにないな、旦那一人くらいだったらひとっ飛びなのに。
こんな状態でもおどける佐助を制し、鉢巻きを解く。
佐助の負っている傷も酷い箇所も、
一つや二つではないのだ。
鉢巻きをきつく縛って止血をしながら、
何とかその身体を引き摺って歩きだす。
「…しっかりしろ、佐助…」
仲間と合流する頃には、
既に佐助は意識を失っていた。
「幸村よ、狼狽えるでない」
たしなめられた言葉も今日ばかりは頭に入らない。
屋敷に着くなり大急ぎで医療班に連れていかれた佐助を追う。
今は、少しでも離れることが怖い。
「…幸村様、」
声を掛けられたときには既に医療班は下がっていた。
部屋の隅でうずくまっていた身体を引き摺り、
佐助の傍らに腰を下ろす。
「…早く、目を覚ませ…」
立てた片膝を抱えて、強く目を閉じる。
口をついて出た言葉は小さな小さな祈りの言葉だった。
君が、君が。続きます。
今回は幸村の話。
恋の花咲けども、
それが必ずしも良きものかと言えば、
そうでもないのではないか。
竜の右目。
奥州筆頭と共に双竜と畏れられる片倉小十郎は、酷く、頭を悩ませていた。
奥州筆頭・伊達政宗の根城の外。
だだっ広い庭で、蒼と紅の炎が激しくぶつかり合いを繰り返している。
渦中に居るのは言わずもがな城主・伊達政宗と「虎の若子」真田幸村である。
「―――して、政宗殿。貴殿は佐助を見てはござらぬか?」
姿が見えぬのでござるよ。
六爪と朱槍がまたぶつかり火花を散らす。
その言葉に政宗は小さく舌打ちをする。
「また猿飛の話か、最近そればっかりじゃねぇか」
「なっ、そんなことはっ…」
虚を突かれて出来た隙を政宗は見逃さない。
勢いを増した六爪を、幸村は何とか長い柄で凌いだ。
「そりゃそうと、お前んとこに風来坊行ってねぇか?」
「前田殿は見てはござらぬ」
朱槍が六爪を弾いて二人が距離を取る。
「…ったく、どこほっつき歩いてんだアイツは」
呟く政宗に、幸村はまた勢い良く地面を蹴って朱槍を振り上げる。
「そういう政宗殿こそ、前田殿の所在を尋ねるのは最近の口癖でござるな」
「shit!ナマ言うようになったじゃねぇか、真田幸村ぁっ」
六爪と朱槍が見えない速度でぶつかり合い、更に激しい火花が散った。
竜の右目。
奥州筆頭と共に双竜と畏れられる片倉小十郎は、
連日に及ぶ蒼と紅の手合わせと無自覚な会話に、酷く、頭を悩ませていた。
慶政で、佐幸。
※実はちゃんと相思相愛なんですが…一方で風来坊と佐助の話は折り畳み↓↓
そうでもないのではないか。
竜の右目。
奥州筆頭と共に双竜と畏れられる片倉小十郎は、酷く、頭を悩ませていた。
奥州筆頭・伊達政宗の根城の外。
だだっ広い庭で、蒼と紅の炎が激しくぶつかり合いを繰り返している。
渦中に居るのは言わずもがな城主・伊達政宗と「虎の若子」真田幸村である。
「―――して、政宗殿。貴殿は佐助を見てはござらぬか?」
姿が見えぬのでござるよ。
六爪と朱槍がまたぶつかり火花を散らす。
その言葉に政宗は小さく舌打ちをする。
「また猿飛の話か、最近そればっかりじゃねぇか」
「なっ、そんなことはっ…」
虚を突かれて出来た隙を政宗は見逃さない。
勢いを増した六爪を、幸村は何とか長い柄で凌いだ。
「そりゃそうと、お前んとこに風来坊行ってねぇか?」
「前田殿は見てはござらぬ」
朱槍が六爪を弾いて二人が距離を取る。
「…ったく、どこほっつき歩いてんだアイツは」
呟く政宗に、幸村はまた勢い良く地面を蹴って朱槍を振り上げる。
「そういう政宗殿こそ、前田殿の所在を尋ねるのは最近の口癖でござるな」
「shit!ナマ言うようになったじゃねぇか、真田幸村ぁっ」
六爪と朱槍が見えない速度でぶつかり合い、更に激しい火花が散った。
竜の右目。
奥州筆頭と共に双竜と畏れられる片倉小十郎は、
連日に及ぶ蒼と紅の手合わせと無自覚な会話に、酷く、頭を悩ませていた。
慶政で、佐幸。
※実はちゃんと相思相愛なんですが…一方で風来坊と佐助の話は折り畳み↓↓
雨、そして雨。
雨が酷かったあの日。
すれ違った青年は、
まるで雷の行方を追うように天を睨んでいた。
肩に流れる艶やかな漆黒の髪。
一瞬中性的にすら見えたそれが、
後の奥州筆頭だと無論知るはずもなく。
奥州筆頭を初めて見た時には、
その髪は肩にかかる程度だった。
伊達の根城を訪れたのは気まぐれで、
運よく目的の当人が居てくれたことに安堵した。
(右目には門前払いを食らう可能性がある)
話を始めれば野暮はしないとばかりに右目は退出し、
用意された酒を軽く飲み交わしながら旅の話でもする。
それにしても、今日は随分冷え込んでいる。
戸の隙間からじわじわと入ってくる湿った空気。
不意に会話が途切れると、
妙に蒼は不機嫌な表情をする。
何となく、合点がいった。
大気が不安定に揺らぐ日を、
蒼は酷く嫌う。
「やることに追われてりゃあいい、」
ふと、手を止めた時にぶり返す。
見ずに蓋をしていたものが、
少しずつ本物さながらな質感を伴って。
それが嫌いなのだそうだ。
そりゃヤだな、と笑えば、
笑い事じゃねぇよ、と軽く睨まれた。
「そういや昔、アンタ髪長かったよな?」
その言葉に、良く知ってるなとばかりに蒼は目を丸くした。
「何で切っちまったんだ?綺麗な髪だったのに」
残念そうに髪に触れれば、
その手を嫌がるでもなく。
「…髪は、くれてやった」
と何の感情も滲まない声で蒼は言った。
「奴等は早くこっちに来いって手を伸ばしてきやがるからな」
蹴落としてきた色んなものが、
どす黒く濁った手を伸ばしてくる。
「だから、テメェはテメェの場所に帰れって、くれてやった」
無造作に掴んだ髪に刃を当てた。
「勿体ねぇなぁ…」
幾度も奥州筆頭の顔の蒼に逢ったことがある。
その度に見える髑髏。
辿ってきた道を振り返れば、
ぎっしりと屍が敷き詰められているに違いない。
その白い手は蒼の背に伸びて、
「此方」側に堕ちてくるのを嘲笑って待っているのだ。
「昔の俺なら、何でもくれてやれた」
それほどに大事なものなんて何もなく、
自分すらもどうでも良かった。
蒼は懐かしがるように目を細める。
「だが、今は違う」
「見てりゃ分かるよ、」
蒼は大切なものも、失いたくないものもたくさん抱えている。
両腕で抱えきれないほどたくさん。
(その中に、俺は、入ってんのかな…)
「死して残らねぇ奴等にくれてやるものなんざ、何もねぇ」
蒼の視線の先。
いつしか立ち込める霧を睨む様子に、
手にした杯の酒をまいた。
すぅ、と逃げるように霧は四散して。
「…俺が天下を獲るのが先か、死者に持ってかれるのが先か…」
蒼はそう呟いて嘲笑った。
「…どいつもこいつも、何でこう、戦ばかり好むんだろうな」
「自分の意志があるからだろ」
理想。
野望。
目的。
内に秘めた理由はみんな違う。
「それが出来ると思わなけりゃ戦はしねぇ」
負け戦と分かって手を出す馬鹿はいない。
誰かに天下を治めてほしくて立ち上がるものなど。
「…もし、俺はそうだと言ったら?」
誰かに…この目の前の蒼に、
天下を治めてほしくて戦に加わるのだとしたら。
「Ha!そんなのはただ食われるだけだ」
蒼は面白がるように言って杯の酒を呷った。
そうか、と頭を掻くと真っ直ぐな瞳がこちらを見ていて。
何?と問えば、
「…だが、俺は見捨てねぇ、」
それは心の中も見透かしてしまいそうな程真剣な眼差し。
「俺のために心を砕く奴は、最後まで誰一人として見捨てたりしねぇ」
それがお前でも。
(…そう、こうだから皆この男に心酔する)
憧れる。
付いていこうと思う。
最後まで、共に、戦いたいと望む。
あの、右目のように。
「…じゃあ俺がアンタを連れていこうとする悪夢から救い出すよ、」
頭を引き寄せて髪に柔らかな口付けを。
すると蒼は「そりゃ頼もしいな」と笑った。
どうか散る最期の瞬間まで、
この蒼の傍に。
蒼+風来坊。
今は未だ、恋愛より友愛。
…そもそも何の話だったのかを忘れてしまった。
間を空けるとそれはそれで考えもの。
すれ違った青年は、
まるで雷の行方を追うように天を睨んでいた。
肩に流れる艶やかな漆黒の髪。
一瞬中性的にすら見えたそれが、
後の奥州筆頭だと無論知るはずもなく。
奥州筆頭を初めて見た時には、
その髪は肩にかかる程度だった。
伊達の根城を訪れたのは気まぐれで、
運よく目的の当人が居てくれたことに安堵した。
(右目には門前払いを食らう可能性がある)
話を始めれば野暮はしないとばかりに右目は退出し、
用意された酒を軽く飲み交わしながら旅の話でもする。
それにしても、今日は随分冷え込んでいる。
戸の隙間からじわじわと入ってくる湿った空気。
不意に会話が途切れると、
妙に蒼は不機嫌な表情をする。
何となく、合点がいった。
大気が不安定に揺らぐ日を、
蒼は酷く嫌う。
「やることに追われてりゃあいい、」
ふと、手を止めた時にぶり返す。
見ずに蓋をしていたものが、
少しずつ本物さながらな質感を伴って。
それが嫌いなのだそうだ。
そりゃヤだな、と笑えば、
笑い事じゃねぇよ、と軽く睨まれた。
「そういや昔、アンタ髪長かったよな?」
その言葉に、良く知ってるなとばかりに蒼は目を丸くした。
「何で切っちまったんだ?綺麗な髪だったのに」
残念そうに髪に触れれば、
その手を嫌がるでもなく。
「…髪は、くれてやった」
と何の感情も滲まない声で蒼は言った。
「奴等は早くこっちに来いって手を伸ばしてきやがるからな」
蹴落としてきた色んなものが、
どす黒く濁った手を伸ばしてくる。
「だから、テメェはテメェの場所に帰れって、くれてやった」
無造作に掴んだ髪に刃を当てた。
「勿体ねぇなぁ…」
幾度も奥州筆頭の顔の蒼に逢ったことがある。
その度に見える髑髏。
辿ってきた道を振り返れば、
ぎっしりと屍が敷き詰められているに違いない。
その白い手は蒼の背に伸びて、
「此方」側に堕ちてくるのを嘲笑って待っているのだ。
「昔の俺なら、何でもくれてやれた」
それほどに大事なものなんて何もなく、
自分すらもどうでも良かった。
蒼は懐かしがるように目を細める。
「だが、今は違う」
「見てりゃ分かるよ、」
蒼は大切なものも、失いたくないものもたくさん抱えている。
両腕で抱えきれないほどたくさん。
(その中に、俺は、入ってんのかな…)
「死して残らねぇ奴等にくれてやるものなんざ、何もねぇ」
蒼の視線の先。
いつしか立ち込める霧を睨む様子に、
手にした杯の酒をまいた。
すぅ、と逃げるように霧は四散して。
「…俺が天下を獲るのが先か、死者に持ってかれるのが先か…」
蒼はそう呟いて嘲笑った。
「…どいつもこいつも、何でこう、戦ばかり好むんだろうな」
「自分の意志があるからだろ」
理想。
野望。
目的。
内に秘めた理由はみんな違う。
「それが出来ると思わなけりゃ戦はしねぇ」
負け戦と分かって手を出す馬鹿はいない。
誰かに天下を治めてほしくて立ち上がるものなど。
「…もし、俺はそうだと言ったら?」
誰かに…この目の前の蒼に、
天下を治めてほしくて戦に加わるのだとしたら。
「Ha!そんなのはただ食われるだけだ」
蒼は面白がるように言って杯の酒を呷った。
そうか、と頭を掻くと真っ直ぐな瞳がこちらを見ていて。
何?と問えば、
「…だが、俺は見捨てねぇ、」
それは心の中も見透かしてしまいそうな程真剣な眼差し。
「俺のために心を砕く奴は、最後まで誰一人として見捨てたりしねぇ」
それがお前でも。
(…そう、こうだから皆この男に心酔する)
憧れる。
付いていこうと思う。
最後まで、共に、戦いたいと望む。
あの、右目のように。
「…じゃあ俺がアンタを連れていこうとする悪夢から救い出すよ、」
頭を引き寄せて髪に柔らかな口付けを。
すると蒼は「そりゃ頼もしいな」と笑った。
どうか散る最期の瞬間まで、
この蒼の傍に。
蒼+風来坊。
今は未だ、恋愛より友愛。
…そもそも何の話だったのかを忘れてしまった。
間を空けるとそれはそれで考えもの。
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。