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春はいい、

桜が綺麗に咲き乱れて、
人の心もどこか踊るように楽しげで。
それは、自分のところじゃ滅多にお目にかかれない光景。

(というか…旦那が居る限り、これは無いよな…)

文字通り、花より団子(より戦…か)な主人だ。
「悪ィ、すぐに戻る」
「Ha!酒がなくなってても文句は言うなよ」
隣の風来坊が席を立ち、
蒼がその背中にからかうように言葉を投げる。
何が理由で席を立つのか聞き逃した(逃したというよりは流したの方が正しいか)が、
ま、それは大した問題でもないか。
「竜の旦那、はいよ」
空いた杯にお酌すれば、酒の力も相まってえらく上機嫌な蒼。
「なぁ、あの忍とはどういう関係だ?」


…は?


「…あの忍…って、もしかして、かすがのこと言ってんの?」
酒を煽った蒼は、肯定するように笑う。
「慶次が言ってたぜ?」
酒に強いと豪語していた蒼は、
ついさっきまで繰り広げていた飲み比べが響いてきている様子。
これをあの堅物の右目がみたら何と言うだろうか。
面白いからいいけど。
「あいつとは同郷の…ま、腐れ縁みたいなもんか」
色恋沙汰にでもなれば、もっと人生華やかだったろうか?
いや。

(…あの紅に出会った時点で、多分、決まってた…)

「それより、竜の旦那はどうなの?小さなお姫様に懐かれちゃってさ、」
最北端。
お下げの良く似合う元気な少女を、この男は殊の外大事にしている。
「An?ありゃそういうんじゃねぇよ」
笑いながら杯に口付けたと思えば急に真剣な表情になって。


「…あいつとは、約束したから、な」


争いのない世を、
安心してやりたいことができる世を、
創ってやるから、と。
「尤も、それも俺一人じゃできねぇからな」
「でたよ、竜の旦那の右目自慢」
苦笑しながら、杯に酒を注ぐ。
「てめぇこそ、いつもの幸村自慢はねぇのかよ」
珍しく切り返された。
「自慢して良いなら、夜通しするけど?」
夜伽ぎ代わりに、なんて冗談を言えば。
「臨むとこ、ろ…だ」
「旦那!?」
杯の酒はしっかりと飲み干して、よろめきながら胸ぐらを捕まれた。

(竜の旦那は…絡む質だったか…)

少し面倒だなと、顔を顰めたところで風来坊の帰座敷。
「おかえり、早かったな」
「なっ…」
風来坊は困ったように頭を掻いた。
「旦那、風来坊が戻ってきたぜ?」
肩に乗せられた腕を解きながら言うと、すっかり据わった目。
「…あれからどれだけ飲んだんだ?」
「てめぇが遅いのが悪ィんだろうが」
立ち尽くす風来坊にゆっくりと蒼は移動を始めて、
よろけた身体を咄嗟に風来坊が支えてやる。
そんなに飲ませたつもりはなかったんだけどなぁ、と軽く頬を掻く。
風来坊に睨まれた。
「え、俺!?」
「政宗、そろそろお開きにしようぜ?な、いい子だからさ」
「sit!まだ酒もあんだろうが」
「けどさぁ、」
宥める風来坊を見て笑う。
「迫るのはそのくらいにしておきなって、竜の旦那、すごく、目の毒」
「佐助っ!」
適度にはだけてきてるとか、
顔赤くなってるとか(笑)
「…って、政宗!?」
プツリと糸が切れるように眠りに落ちた蒼を、しっかりと抱きなおす風来坊。
その表情はすっかり呆れていて。
「政宗にあんまり酒は飲ませねぇ方が良さそうだな」
右目の苦労を垣間見た気がした。
「佐助、アンタも面白がって飲ませるなよ、」
人に飲ませるの巧いんだからさ、
と釘を刺された。
それに応えるように軽く手を挙げたら、
また風来坊は嘆息して座敷を出ていった。
遠ざかる足音。
開け放たれた座敷の外から聞こえる花街の喧騒。
ちびちびと酒に口付けながら、
心地よい風に目を細めて。


「春はいいモンだねぇ…須く恋せよってね」


あの風来坊の言葉を借りるとすれば。

「…あー…うちの旦那が恋しくなってきた…」

そろそろお暇しようか。
杯を置いて縁に出ると、風来坊が見送ってくれる。
「次は、幸村も連れてこいよ」
団子でも用意しておくさ。
笑う風来坊に丁重なお断わりを。
「うちの旦那の酔った姿見せたくないから遠慮しておくよ」
「…アンタ本当に自分の欲には忠実だよな…」
あからさまな独占欲。
当人が気付かないから大変なんだけど。
「須く恋せよ、ってね、まぁアンタも頑張れよ」
右目が一番恐ぇから。
風来坊は何も言わず、ただ苦笑しただけだった。
屋根を渡り、真田の根城の方角に目を遣る。


「……さて、と、ご機嫌とりに団子でも買って帰るとしますかね」


食いしん坊な、主人の許へ。











友人のマイ設定に萌えたぎった。
風来坊>蒼>忍
風来坊→笑い上戸、蒼→絡み酒、忍→酔わせ上手
イマイチ生かせてない自分に絶望した…orz
実はこの後、風来坊が縁側で一人酒、その杯に桜の花びらが落ちた、というシーンがある。

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ドクン、と、

心音が大きく響いて。
声が、言葉が、出ない。

「佐助ェェェェっ!!!!」

劈くような紅の声に、
ようやく自分の身に起こっている現実を自覚する。

(…俺、は、)
駆け寄ってくる紅を視界にはっきりと捉えて。
あぁ、良かった。
と、ただ、そう思った。


闇の中に仄かに滲む光り。
それが何なのか、ゆっくりと重い瞼を持ち上げて知れた。

(…さくら、だ)

軽く身じろぐと波紋のように広がる鈍痛。
声を噛み殺して、身体を起こすと開け放たれた窓枠に凭れる。
目が覚める前までは、確かに傍に紅がいた。
その残滓を、何となく感じ取って笑みを浮かべた。

(…格好悪ィ…)

傷はそんなに深くは無いが、如何せん出血が多かった。
実際のところ、貧血でフラフラだし。

(でも、ま、旦那無事みたいだし、結果オーライってことで)

サラサラと枝が揺れる音が心地よくて。
ゆっくりと目を閉じる。
そして再び眠りの中に落ちかけていると、
背中をくいと引くように馨る、花の香り。
不意に。

「…何、やってんの…?」

頭上から降り注ぐ、淡い桜の花びら。
それを降らせる、両手。
「―――…花見だ、花見」
顔を上げると、そこに、蒼がいた。
「意外と早ェ、お目覚めだな」
「ここ、アンタの屋敷か」
揉め事を領地内に持ち込ませないために、
本来関係ないはずの伊達がしゃしゃり出てきたというわけだ。
「幸村なら、ぶっ倒れたんで小十郎が面倒見てるぜ」
「ぶっ…!!」
勢いよく身体を起こしたら、鈍痛が走って結局窓枠に倒れた。
それを見て、蒼は愉快そうに笑った。
「別に取って食ったりはしねぇよ、」
見りゃ分かんだろ。
蒼の言葉に強面の右目を思い浮かべて首を傾げた。
取って食いはしないだろうが、
不穏な動き一つ見られたら躊躇いなく斬られそうだ。
「主従揃って情けねぇな、真田ってのは」
「大きなお世話だよ、」
相変わらず桜はゆっくりと枝を揺らし、
はらはらと花びらは舞い落ちて。
視界を閉じて感覚の鋭くなった鼓膜を揺らす、蒼の声。
それは今まで聞いた中で、一番静かだった気がした。


「――…春ってのは、別れる季節にしちゃあ、一番切ねぇ季節だ」


どこぞの風来坊の言葉みたいに。
それは誰かに向けての言葉ではなかったのかもしれない。
それはそう、独白のような。
自分に言い聞かせるような。
「こんなに桜が綺麗な季節に、そんなのは勿体無ェだろ」
桜が咲くたび思い出す、別れの記憶。
春が来るたびぶり返す、離れた痛み。

「…なぁ、旦那が戻ってくるまで、もう少し此処に居てくれない?」

その一国を背負うにはまだ頼りない背中に言葉を投げて。
「…無用だろ、そんなもん」
蒼は、振り向いて不敵に笑う。
そして二度と振り返らずに、歩いていった。
それからすぐに、
「…さ、…」
気遣うように音を立てずに開けられた襖。
「佐助ェェェェェェッ!!!!」
振り返れば、そこに愛しい紅。
「佐助っ、佐助っ」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられて。
「…旦那、ちょ、痛っ、待って!」
そんなに不安になったのかい?
「ちょ、ホント、中身出るから!!」
それだけ恋しかったのかい?旦那。
紅に子どもの頃の姿を重ねて、

(こういうところは変わらないんだよね…)

仕方がないから、出来うる限りしっかりと抱きしめ返した。













ようやく紅従主。
きっと、赤主は非常に感情表現が極端なんだと思う。だって…滾るぐらいだし。

↓折り畳みにオマケの蒼従主(※初書き)

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暖かい陽射しと、

風に淡い桜色がひらり。
目を遣ったその桜の下に、幻を見た。

『…また、逢えたらな』

奥州の、蒼。
その言葉が、不意に脳裏に過ぎって。
桜の花はどうでも良かった。
何となく胸騒ぎがして、気がつくと奥州に脚が向いていた。
道中視界に入る春の景色に、
花見と言い訳が出来そうだと安堵する。
杞憂ならいい。
この不安は「あの時」と似ている。
首に提げたお守りを押さえた。
呟くように口唇に名を乗せようとした時。

「意外と近くに居たんだな、前田の風来坊さんよ」

桜に紛れた迷彩。
何故、とは問わない。
「…一番最初のお出迎えがアンタとはな」
少し残念な表情をしたが、迷彩は少しも表情を動かさなかった。
「さて、この俺に何の用だい?」
「用があるのは俺じゃない、…いや、そもそも用事があるわけでもないのか」
迷彩は軽く考える仕草をしたが、
すぐにそれをやめたらしい。
「ま、とりあえずアンタがどこにいるかは突き止めたし」
「俺を探してたのに、用がないってのも寂しいねぇ」
わざとらしく嘆息すると、初めて迷彩が笑う。
桜の枝を手折らぬよう器用に桜の中に隠れて。
「…近くに居てくれて助かったぜ、小さな労力でたっぷりお返しを請求できる」
楽しげな迷彩に、

「…それ、一体誰に請求する気だ?」

胸騒ぎが、した。
「察するに、アンタも気付いてるんだろ?」
主君の命令なら、「請求」なんて言葉は要らない。
主ではない誰か。
この迷彩が、気紛れだとて動くだけの。

(そんなのは、一人しか居ねぇだろっ…)

「あちらさんにアンタに会う気はないみたいだぜ?」
アンタが生きてどこにいんのか、それが知りたかったらしい。
珍しいよな、あんなこと言うなんて。
迷彩が笑う。
会って言葉を交わしたのを思い出すように。
「…なぁ、前田の風来坊さんよ」
アンタの胸騒ぎは優秀だよ、と。
胸騒ぎと奥州に向いた脚。
迷彩は、音もなく地面に降り立って。
けど、
「そんなに動揺するくらいなら、目を離さない方がいいぜ?」
見上げてくる、射る様な瞳。


「アンタと違って、手を伸ばせばいつでも捕まえられる」


それくらい、近くに居るぜ?
主語は言わない。
言わなくても分かっている。
無意識に奥歯を噛んだ。
「…さて、と、俺様は報告に帰るとするかね」
いつものように笑うことも忘れて、露骨に表情を変えてしまった。
それを見、また楽しそうに迷彩は笑い、

「…野暮なこと、しなさんなよ?風来坊」

風のごとく、消えた。
自分の足では追いつくことは叶わない。
焦燥感だけが、だた膨らむばかりで。
「――――…っくしょぉっ…」
風にゆっくりと枝をしならせる桜の下。
呼吸を忘れてしまうほど、夢中になって走りだす。
余裕なんて無い、なんて格好悪いんだ。
それでも、

『…また、逢えたらな』

(逢えたら、じゃなくてさ)

笑みを含んだ声で、軽く手を上げた後ろ姿。
「…花見、どころじゃねぇよな、こりゃ」
あの、蒼に。
何よりも先に、あの蒼に。
自分の居所を気にしてくれている。
あの正直で、不器用な。

愛おしい、蒼。

それからどうやって蒼の元にたどり着いたのか、
正直覚えていない。
それだけ無我夢中だったってことで、許してもらえばいいか。
畳に横たわる後ろ姿。



「藤の花を見に来たぜ、」



ゆっくりと目を開ける蒼に笑って、
感触を確かめるように柔らかい髪を指で梳いた。















前回の続き…というか、裏話。
実は風来坊、迷彩にこんなこと言われてました、ぞっと!(笑)

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手を止めて、 ※慶政(←佐?)

ふと、その顔を思い出したのは。
ここ数日続いている暖かい日差しに、咲き綻んだ桜の所為だろうか。

(顔も見てねぇし、…あの能天気な声も聞いてねぇ)

風の向くまま、気の向くまま。
何にも縛られることをよしとしない風来坊は今頃どこにいるやら。

「…で、俺様を呼び出したってわけかい」

わざとらしく大袈裟に驚く忍に、頼む相手を間違えたかと数秒思案したが、
他に当てがあるわけもなく。
有能な右目にはこんなことはできまい。
「言っとくが、俺様は真田の旦那の忍だぜ?」
忍が軽く肩を竦める気配がしたが、
付き合う気がなければわざわざこの場にいるはずがない。
「そうだな、伊達に忍は居ねぇ」
文机に頬杖をついて文に落としていた視線を上げると、
やけに真剣な表情の忍と目が合った。
「…珍しいな、こんなことに俺様を使おうだなんてさ」
「天下獲りに使うわけにはいかねぇだろ、てめぇは敵だ」
忍は即座に距離をつめて。
それは一瞬で息の根を止めてしまえるほどの近距離。
「この貸しは高くつくぜ?…独眼竜」
「借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍」


風来坊の所在が知れたのは、それから翌日。
忍の、本業の片手間の割りに手際が良く正直驚いた。
急いで突き止めろと言ったつもりはないのだが。
「つまり、探しに行かなくても桜追って奥州にもう来てるって話」
無駄な体力使わずにすんで良かったとばかりに言う忍に、
わざとらしく労いの言葉をかけて。
「アンタはさ、あいつが来んのただ待ってりゃいいんじゃないの?」
「別に会うつもりはねぇよ、」
その言葉に、忍は怪訝な表情をする。
「あいつが、生きて何処にいんのか気になっただけだ」
これは本当。
会いたくて、こんな些事を一流の忍(性格はともかく、一応実力は認めている)
に頼んだわけじゃない。
「…へぇ、いつも自分のとこばっかり考えてるようなアンタが、」
言葉ひとつずつ忍はゆっくりと距離を縮めてくる。
「天下獲りに無関係な他の誰かを気にするなんて…妬ける話だねぇ」
「Han!ものは言い様だな」
鼻で笑えば、忍は笑わない。
「じゃあ、独眼竜の旦那さぁ、」
腕を掴んで、吐息が絡まりそうなほどに近く口唇を寄せて。


「あの風来坊が居るとこで、たっぷり借りを返してもらっても問題ないだろ?」


『借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍』

「あいつは、天下獲りには関係ないんだし?」
「…面倒くせぇな、」
露骨に舌打ちすれば、忍はあっさりと手を引いた。
「……と、言いたいところだけど、超刀の餌食にはなりたくないんでね」
開け放たれた襖から風がそよいで、はらりと桜の花びらが畳に落ちる。
「意気地がねぇな」
「旦那に慰めてもらうさ」
忍は風に融けるように消え、それを見送ったまま畳に倒れた。
目を閉じると、焦燥感の滲んだ足音が近づいてくるのが分かった。


「藤の花を見に来たぜ、」


目を開ければ、お馴染みの風来坊。
どこに行ってたのか、と口にしようとして止めた。

(…女じゃあるまいし…)

「…藤の花ってのは、何のjokeだ?」
風来坊は笑って、優しく髪を梳く。それがくすぐったくて仕方ない。
「ホントは、奥州の桜も咲いてるから花見だと思ってたんだけど」
「すりゃあいいじゃねぇか、花見を」
「それよりも目が離せない藤の花がいるもんでさ」
本当に目が離せない、と少し語調を強める話し方に、くくっと喉で笑って。
「俺はてめぇを縛るつもりはねぇ、」
会いたいと言うつもりもないし、傍にいろと命令するつもりもない。
ただ、ふとした時に思い出す。


「目が離せないってんなら、てめぇがちゃんと捕まえてろ」


そう容易く捕まってやるつもりはないが。
「アンタが奥州筆頭じゃなけりゃあ、すぐにでも攫ってやるのにな」
額が触れて、ぽつりと風来坊は呟く。
軽く笑ったら、拗ねたような表情の風来坊に口唇を塞がれた。

「…次は、佐助に探させるのはやめてくれよ」

何か言われたのか?と問えば、返ってくるのは苦笑ばかりで。
畳に縫い止める風来坊の髪をくしゃりと撫でて。
「…どうした?」




(……この手で、繋いでいられるなら)




不意に形を持った叶わぬ想いに、そっと目を閉じた。













ちょいと甘い仕様。
風来坊も蒼様の男前にタジタジ。藤の花…紫=最愛、高貴な色→蒼様的な意図で。

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発作のように繰り返す、

諦めてしまった、あの時。

得物が大振りで馬鹿みたいにでかいのは、
切っ先を向ける相手を見たくないから。
人を斬ったり倒したり、その感触は消えることなく手に残っていて。
相手の動きをみれば、無意識に身体が回避・反撃の動きをする。
染み付いた闇は、いつまでも拭えなくて。
「…人を斬る感触ってのは、嫌だねぇ」
得物はでかくて、些細な感触が手に残らないほうがいい。
気付いてしまえば、いつだって「あの時」に戻ってしまう。
「だから戦は好きじゃない」
我ながら珍しく饒舌だと思いながら、退屈そうに煙管を持つ蒼に視線を向けて。
「戦はみーんな、祭りになっちまえばいいのに」
「Ha!てめぇみたいな馬鹿が増えたら面倒だろうが」
蒼は呆れたように笑うのに、なぜか、笑い返すことが出来なかった。
「なぁ、」
近づいてその着物の裾を軽く掴む。
「今日は此処に置いてくんねぇ?」
それはお願いではなく、確認。
「…でけぇ図体は邪魔だからな、」
断られたのかと、思った。

「とりあえず、枕になれ」

「はいはい、膝ならいくらでも貸しますよ、」
笑ったら、軽く頭を殴られた。
「膝じゃねーよ、腕だ、腕」
本気で目の前の男が何を言ってるのか理解できなかった。

自分より小さな身体がひっついてくるのは慣れている。
子どもは存外こういうことを喜ぶから。
「あのー…政宗、さん?」
背中に回される腕。
近すぎるほど近くに感じる体温。
「枕は喋らねーだろ」
ぶっきらぼうな言葉に苦笑する。
腕は枕として使用中で、逃げるという選択肢はそもそもない。

(…ダメだな、思い出す)

あの時、この両腕でかき抱いたのは。
温もりを失った愛しき人。
それを奪ったのは唯一無二の友。
男は強さを得るために弱きを捨てた。
弱きを捨てなければ強くなれないと言うなら強さなどいらない。
だけどただ、ひとつ。
譲れない想いがあって。

「…アンタはさ、幸せかい?」

「――――さぁ、な」
希(コイネガ)う。
幸せってのがどんなものか知らないという蒼に、
少しでも多く幸せが降り注ぐように。
「…俺はさ、みんなが幸せなら、それでいいんだよ」
自分は諦めてしまったから。
「…それが、いいんだ」
幸せを願えば願うほど、壊れたものを思い出して臆病になる。
自分の幸せを望むことができなくなって。
「てめぇの言う“幸せ”がどんなもんかは知らねぇが、」
蒼は、言う。

「そういうのは、てめぇも幸せじゃなきゃできねぇんじゃねーのか?」

誰かの幸せを望むことは。
「…そ、か、じゃあ…どうしようかな」
諦めてしまった自分には、出来ないこと?
「まぁ、そんときゃ俺がみんな幸せにしてやるよ」
幸せを知らない、蒼は、言う。

「そうすりゃ、てめぇも幸せなんだろ?」

それでこの話は終わりだ、いい加減ゆっくり寝かせろ。
蒼はそう事も無げに言って黙り込んだ。
蒼は知っていたのだろうか?
見抜いていたのだろうか?
だから。

『とりあえず、枕になれ』

許してくれた?

『膝じゃねーよ、腕だ、腕』

抱きしめてくれた?
あぁ、この温もりはこんなにも優しい。

(…やべ、泣きそう…)

そんなことを口にすれば、
きっとこの男は「じゃあ泣きゃあいいじゃねぇか」と至極真面目な表情で言うのだろうが。























引き続き、傾奇者と蒼様の話。
殆ど自分の胸の内を明かさない傾奇者でも、たまには蒼様に本音を見せることもあっていいんではないかと。
秀吉とねねさんのことを、ぼんやりぼかしで。でもやっぱりイマイチ口調が分からない…orz

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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