monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
春はいい、
桜が綺麗に咲き乱れて、
人の心もどこか踊るように楽しげで。
それは、自分のところじゃ滅多にお目にかかれない光景。
(というか…旦那が居る限り、これは無いよな…)
文字通り、花より団子(より戦…か)な主人だ。
「悪ィ、すぐに戻る」
「Ha!酒がなくなってても文句は言うなよ」
隣の風来坊が席を立ち、
蒼がその背中にからかうように言葉を投げる。
何が理由で席を立つのか聞き逃した(逃したというよりは流したの方が正しいか)が、
ま、それは大した問題でもないか。
「竜の旦那、はいよ」
空いた杯にお酌すれば、酒の力も相まってえらく上機嫌な蒼。
「なぁ、あの忍とはどういう関係だ?」
…は?
「…あの忍…って、もしかして、かすがのこと言ってんの?」
酒を煽った蒼は、肯定するように笑う。
「慶次が言ってたぜ?」
酒に強いと豪語していた蒼は、
ついさっきまで繰り広げていた飲み比べが響いてきている様子。
これをあの堅物の右目がみたら何と言うだろうか。
面白いからいいけど。
「あいつとは同郷の…ま、腐れ縁みたいなもんか」
色恋沙汰にでもなれば、もっと人生華やかだったろうか?
いや。
(…あの紅に出会った時点で、多分、決まってた…)
「それより、竜の旦那はどうなの?小さなお姫様に懐かれちゃってさ、」
最北端。
お下げの良く似合う元気な少女を、この男は殊の外大事にしている。
「An?ありゃそういうんじゃねぇよ」
笑いながら杯に口付けたと思えば急に真剣な表情になって。
「…あいつとは、約束したから、な」
争いのない世を、
安心してやりたいことができる世を、
創ってやるから、と。
「尤も、それも俺一人じゃできねぇからな」
「でたよ、竜の旦那の右目自慢」
苦笑しながら、杯に酒を注ぐ。
「てめぇこそ、いつもの幸村自慢はねぇのかよ」
珍しく切り返された。
「自慢して良いなら、夜通しするけど?」
夜伽ぎ代わりに、なんて冗談を言えば。
「臨むとこ、ろ…だ」
「旦那!?」
杯の酒はしっかりと飲み干して、よろめきながら胸ぐらを捕まれた。
(竜の旦那は…絡む質だったか…)
少し面倒だなと、顔を顰めたところで風来坊の帰座敷。
「おかえり、早かったな」
「なっ…」
風来坊は困ったように頭を掻いた。
「旦那、風来坊が戻ってきたぜ?」
肩に乗せられた腕を解きながら言うと、すっかり据わった目。
「…あれからどれだけ飲んだんだ?」
「てめぇが遅いのが悪ィんだろうが」
立ち尽くす風来坊にゆっくりと蒼は移動を始めて、
よろけた身体を咄嗟に風来坊が支えてやる。
そんなに飲ませたつもりはなかったんだけどなぁ、と軽く頬を掻く。
風来坊に睨まれた。
「え、俺!?」
「政宗、そろそろお開きにしようぜ?な、いい子だからさ」
「sit!まだ酒もあんだろうが」
「けどさぁ、」
宥める風来坊を見て笑う。
「迫るのはそのくらいにしておきなって、竜の旦那、すごく、目の毒」
「佐助っ!」
適度にはだけてきてるとか、
顔赤くなってるとか(笑)
「…って、政宗!?」
プツリと糸が切れるように眠りに落ちた蒼を、しっかりと抱きなおす風来坊。
その表情はすっかり呆れていて。
「政宗にあんまり酒は飲ませねぇ方が良さそうだな」
右目の苦労を垣間見た気がした。
「佐助、アンタも面白がって飲ませるなよ、」
人に飲ませるの巧いんだからさ、
と釘を刺された。
それに応えるように軽く手を挙げたら、
また風来坊は嘆息して座敷を出ていった。
遠ざかる足音。
開け放たれた座敷の外から聞こえる花街の喧騒。
ちびちびと酒に口付けながら、
心地よい風に目を細めて。
「春はいいモンだねぇ…須く恋せよってね」
あの風来坊の言葉を借りるとすれば。
「…あー…うちの旦那が恋しくなってきた…」
そろそろお暇しようか。
杯を置いて縁に出ると、風来坊が見送ってくれる。
「次は、幸村も連れてこいよ」
団子でも用意しておくさ。
笑う風来坊に丁重なお断わりを。
「うちの旦那の酔った姿見せたくないから遠慮しておくよ」
「…アンタ本当に自分の欲には忠実だよな…」
あからさまな独占欲。
当人が気付かないから大変なんだけど。
「須く恋せよ、ってね、まぁアンタも頑張れよ」
右目が一番恐ぇから。
風来坊は何も言わず、ただ苦笑しただけだった。
屋根を渡り、真田の根城の方角に目を遣る。
「……さて、と、ご機嫌とりに団子でも買って帰るとしますかね」
食いしん坊な、主人の許へ。
友人のマイ設定に萌えたぎった。
風来坊>蒼>忍
風来坊→笑い上戸、蒼→絡み酒、忍→酔わせ上手
イマイチ生かせてない自分に絶望した…orz
実はこの後、風来坊が縁側で一人酒、その杯に桜の花びらが落ちた、というシーンがある。
人の心もどこか踊るように楽しげで。
それは、自分のところじゃ滅多にお目にかかれない光景。
(というか…旦那が居る限り、これは無いよな…)
文字通り、花より団子(より戦…か)な主人だ。
「悪ィ、すぐに戻る」
「Ha!酒がなくなってても文句は言うなよ」
隣の風来坊が席を立ち、
蒼がその背中にからかうように言葉を投げる。
何が理由で席を立つのか聞き逃した(逃したというよりは流したの方が正しいか)が、
ま、それは大した問題でもないか。
「竜の旦那、はいよ」
空いた杯にお酌すれば、酒の力も相まってえらく上機嫌な蒼。
「なぁ、あの忍とはどういう関係だ?」
…は?
「…あの忍…って、もしかして、かすがのこと言ってんの?」
酒を煽った蒼は、肯定するように笑う。
「慶次が言ってたぜ?」
酒に強いと豪語していた蒼は、
ついさっきまで繰り広げていた飲み比べが響いてきている様子。
これをあの堅物の右目がみたら何と言うだろうか。
面白いからいいけど。
「あいつとは同郷の…ま、腐れ縁みたいなもんか」
色恋沙汰にでもなれば、もっと人生華やかだったろうか?
いや。
(…あの紅に出会った時点で、多分、決まってた…)
「それより、竜の旦那はどうなの?小さなお姫様に懐かれちゃってさ、」
最北端。
お下げの良く似合う元気な少女を、この男は殊の外大事にしている。
「An?ありゃそういうんじゃねぇよ」
笑いながら杯に口付けたと思えば急に真剣な表情になって。
「…あいつとは、約束したから、な」
争いのない世を、
安心してやりたいことができる世を、
創ってやるから、と。
「尤も、それも俺一人じゃできねぇからな」
「でたよ、竜の旦那の右目自慢」
苦笑しながら、杯に酒を注ぐ。
「てめぇこそ、いつもの幸村自慢はねぇのかよ」
珍しく切り返された。
「自慢して良いなら、夜通しするけど?」
夜伽ぎ代わりに、なんて冗談を言えば。
「臨むとこ、ろ…だ」
「旦那!?」
杯の酒はしっかりと飲み干して、よろめきながら胸ぐらを捕まれた。
(竜の旦那は…絡む質だったか…)
少し面倒だなと、顔を顰めたところで風来坊の帰座敷。
「おかえり、早かったな」
「なっ…」
風来坊は困ったように頭を掻いた。
「旦那、風来坊が戻ってきたぜ?」
肩に乗せられた腕を解きながら言うと、すっかり据わった目。
「…あれからどれだけ飲んだんだ?」
「てめぇが遅いのが悪ィんだろうが」
立ち尽くす風来坊にゆっくりと蒼は移動を始めて、
よろけた身体を咄嗟に風来坊が支えてやる。
そんなに飲ませたつもりはなかったんだけどなぁ、と軽く頬を掻く。
風来坊に睨まれた。
「え、俺!?」
「政宗、そろそろお開きにしようぜ?な、いい子だからさ」
「sit!まだ酒もあんだろうが」
「けどさぁ、」
宥める風来坊を見て笑う。
「迫るのはそのくらいにしておきなって、竜の旦那、すごく、目の毒」
「佐助っ!」
適度にはだけてきてるとか、
顔赤くなってるとか(笑)
「…って、政宗!?」
プツリと糸が切れるように眠りに落ちた蒼を、しっかりと抱きなおす風来坊。
その表情はすっかり呆れていて。
「政宗にあんまり酒は飲ませねぇ方が良さそうだな」
右目の苦労を垣間見た気がした。
「佐助、アンタも面白がって飲ませるなよ、」
人に飲ませるの巧いんだからさ、
と釘を刺された。
それに応えるように軽く手を挙げたら、
また風来坊は嘆息して座敷を出ていった。
遠ざかる足音。
開け放たれた座敷の外から聞こえる花街の喧騒。
ちびちびと酒に口付けながら、
心地よい風に目を細めて。
「春はいいモンだねぇ…須く恋せよってね」
あの風来坊の言葉を借りるとすれば。
「…あー…うちの旦那が恋しくなってきた…」
そろそろお暇しようか。
杯を置いて縁に出ると、風来坊が見送ってくれる。
「次は、幸村も連れてこいよ」
団子でも用意しておくさ。
笑う風来坊に丁重なお断わりを。
「うちの旦那の酔った姿見せたくないから遠慮しておくよ」
「…アンタ本当に自分の欲には忠実だよな…」
あからさまな独占欲。
当人が気付かないから大変なんだけど。
「須く恋せよ、ってね、まぁアンタも頑張れよ」
右目が一番恐ぇから。
風来坊は何も言わず、ただ苦笑しただけだった。
屋根を渡り、真田の根城の方角に目を遣る。
「……さて、と、ご機嫌とりに団子でも買って帰るとしますかね」
食いしん坊な、主人の許へ。
友人のマイ設定に萌えたぎった。
風来坊>蒼>忍
風来坊→笑い上戸、蒼→絡み酒、忍→酔わせ上手
イマイチ生かせてない自分に絶望した…orz
実はこの後、風来坊が縁側で一人酒、その杯に桜の花びらが落ちた、というシーンがある。
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ドクン、と、
心音が大きく響いて。
声が、言葉が、出ない。
「佐助ェェェェっ!!!!」
劈くような紅の声に、
ようやく自分の身に起こっている現実を自覚する。
(…俺、は、)
駆け寄ってくる紅を視界にはっきりと捉えて。
あぁ、良かった。
と、ただ、そう思った。
闇の中に仄かに滲む光り。
それが何なのか、ゆっくりと重い瞼を持ち上げて知れた。
(…さくら、だ)
軽く身じろぐと波紋のように広がる鈍痛。
声を噛み殺して、身体を起こすと開け放たれた窓枠に凭れる。
目が覚める前までは、確かに傍に紅がいた。
その残滓を、何となく感じ取って笑みを浮かべた。
(…格好悪ィ…)
傷はそんなに深くは無いが、如何せん出血が多かった。
実際のところ、貧血でフラフラだし。
(でも、ま、旦那無事みたいだし、結果オーライってことで)
サラサラと枝が揺れる音が心地よくて。
ゆっくりと目を閉じる。
そして再び眠りの中に落ちかけていると、
背中をくいと引くように馨る、花の香り。
不意に。
「…何、やってんの…?」
頭上から降り注ぐ、淡い桜の花びら。
それを降らせる、両手。
「―――…花見だ、花見」
顔を上げると、そこに、蒼がいた。
「意外と早ェ、お目覚めだな」
「ここ、アンタの屋敷か」
揉め事を領地内に持ち込ませないために、
本来関係ないはずの伊達がしゃしゃり出てきたというわけだ。
「幸村なら、ぶっ倒れたんで小十郎が面倒見てるぜ」
「ぶっ…!!」
勢いよく身体を起こしたら、鈍痛が走って結局窓枠に倒れた。
それを見て、蒼は愉快そうに笑った。
「別に取って食ったりはしねぇよ、」
見りゃ分かんだろ。
蒼の言葉に強面の右目を思い浮かべて首を傾げた。
取って食いはしないだろうが、
不穏な動き一つ見られたら躊躇いなく斬られそうだ。
「主従揃って情けねぇな、真田ってのは」
「大きなお世話だよ、」
相変わらず桜はゆっくりと枝を揺らし、
はらはらと花びらは舞い落ちて。
視界を閉じて感覚の鋭くなった鼓膜を揺らす、蒼の声。
それは今まで聞いた中で、一番静かだった気がした。
「――…春ってのは、別れる季節にしちゃあ、一番切ねぇ季節だ」
どこぞの風来坊の言葉みたいに。
それは誰かに向けての言葉ではなかったのかもしれない。
それはそう、独白のような。
自分に言い聞かせるような。
「こんなに桜が綺麗な季節に、そんなのは勿体無ェだろ」
桜が咲くたび思い出す、別れの記憶。
春が来るたびぶり返す、離れた痛み。
「…なぁ、旦那が戻ってくるまで、もう少し此処に居てくれない?」
その一国を背負うにはまだ頼りない背中に言葉を投げて。
「…無用だろ、そんなもん」
蒼は、振り向いて不敵に笑う。
そして二度と振り返らずに、歩いていった。
それからすぐに、
「…さ、…」
気遣うように音を立てずに開けられた襖。
「佐助ェェェェェェッ!!!!」
振り返れば、そこに愛しい紅。
「佐助っ、佐助っ」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられて。
「…旦那、ちょ、痛っ、待って!」
そんなに不安になったのかい?
「ちょ、ホント、中身出るから!!」
それだけ恋しかったのかい?旦那。
紅に子どもの頃の姿を重ねて、
(こういうところは変わらないんだよね…)
仕方がないから、出来うる限りしっかりと抱きしめ返した。
ようやく紅従主。
きっと、赤主は非常に感情表現が極端なんだと思う。だって…滾るぐらいだし。
↓折り畳みにオマケの蒼従主(※初書き)
声が、言葉が、出ない。
「佐助ェェェェっ!!!!」
劈くような紅の声に、
ようやく自分の身に起こっている現実を自覚する。
(…俺、は、)
駆け寄ってくる紅を視界にはっきりと捉えて。
あぁ、良かった。
と、ただ、そう思った。
闇の中に仄かに滲む光り。
それが何なのか、ゆっくりと重い瞼を持ち上げて知れた。
(…さくら、だ)
軽く身じろぐと波紋のように広がる鈍痛。
声を噛み殺して、身体を起こすと開け放たれた窓枠に凭れる。
目が覚める前までは、確かに傍に紅がいた。
その残滓を、何となく感じ取って笑みを浮かべた。
(…格好悪ィ…)
傷はそんなに深くは無いが、如何せん出血が多かった。
実際のところ、貧血でフラフラだし。
(でも、ま、旦那無事みたいだし、結果オーライってことで)
サラサラと枝が揺れる音が心地よくて。
ゆっくりと目を閉じる。
そして再び眠りの中に落ちかけていると、
背中をくいと引くように馨る、花の香り。
不意に。
「…何、やってんの…?」
頭上から降り注ぐ、淡い桜の花びら。
それを降らせる、両手。
「―――…花見だ、花見」
顔を上げると、そこに、蒼がいた。
「意外と早ェ、お目覚めだな」
「ここ、アンタの屋敷か」
揉め事を領地内に持ち込ませないために、
本来関係ないはずの伊達がしゃしゃり出てきたというわけだ。
「幸村なら、ぶっ倒れたんで小十郎が面倒見てるぜ」
「ぶっ…!!」
勢いよく身体を起こしたら、鈍痛が走って結局窓枠に倒れた。
それを見て、蒼は愉快そうに笑った。
「別に取って食ったりはしねぇよ、」
見りゃ分かんだろ。
蒼の言葉に強面の右目を思い浮かべて首を傾げた。
取って食いはしないだろうが、
不穏な動き一つ見られたら躊躇いなく斬られそうだ。
「主従揃って情けねぇな、真田ってのは」
「大きなお世話だよ、」
相変わらず桜はゆっくりと枝を揺らし、
はらはらと花びらは舞い落ちて。
視界を閉じて感覚の鋭くなった鼓膜を揺らす、蒼の声。
それは今まで聞いた中で、一番静かだった気がした。
「――…春ってのは、別れる季節にしちゃあ、一番切ねぇ季節だ」
どこぞの風来坊の言葉みたいに。
それは誰かに向けての言葉ではなかったのかもしれない。
それはそう、独白のような。
自分に言い聞かせるような。
「こんなに桜が綺麗な季節に、そんなのは勿体無ェだろ」
桜が咲くたび思い出す、別れの記憶。
春が来るたびぶり返す、離れた痛み。
「…なぁ、旦那が戻ってくるまで、もう少し此処に居てくれない?」
その一国を背負うにはまだ頼りない背中に言葉を投げて。
「…無用だろ、そんなもん」
蒼は、振り向いて不敵に笑う。
そして二度と振り返らずに、歩いていった。
それからすぐに、
「…さ、…」
気遣うように音を立てずに開けられた襖。
「佐助ェェェェェェッ!!!!」
振り返れば、そこに愛しい紅。
「佐助っ、佐助っ」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられて。
「…旦那、ちょ、痛っ、待って!」
そんなに不安になったのかい?
「ちょ、ホント、中身出るから!!」
それだけ恋しかったのかい?旦那。
紅に子どもの頃の姿を重ねて、
(こういうところは変わらないんだよね…)
仕方がないから、出来うる限りしっかりと抱きしめ返した。
ようやく紅従主。
きっと、赤主は非常に感情表現が極端なんだと思う。だって…滾るぐらいだし。
↓折り畳みにオマケの蒼従主(※初書き)
暖かい陽射しと、
風に淡い桜色がひらり。
目を遣ったその桜の下に、幻を見た。
『…また、逢えたらな』
奥州の、蒼。
その言葉が、不意に脳裏に過ぎって。
桜の花はどうでも良かった。
何となく胸騒ぎがして、気がつくと奥州に脚が向いていた。
道中視界に入る春の景色に、
花見と言い訳が出来そうだと安堵する。
杞憂ならいい。
この不安は「あの時」と似ている。
首に提げたお守りを押さえた。
呟くように口唇に名を乗せようとした時。
「意外と近くに居たんだな、前田の風来坊さんよ」
桜に紛れた迷彩。
何故、とは問わない。
「…一番最初のお出迎えがアンタとはな」
少し残念な表情をしたが、迷彩は少しも表情を動かさなかった。
「さて、この俺に何の用だい?」
「用があるのは俺じゃない、…いや、そもそも用事があるわけでもないのか」
迷彩は軽く考える仕草をしたが、
すぐにそれをやめたらしい。
「ま、とりあえずアンタがどこにいるかは突き止めたし」
「俺を探してたのに、用がないってのも寂しいねぇ」
わざとらしく嘆息すると、初めて迷彩が笑う。
桜の枝を手折らぬよう器用に桜の中に隠れて。
「…近くに居てくれて助かったぜ、小さな労力でたっぷりお返しを請求できる」
楽しげな迷彩に、
「…それ、一体誰に請求する気だ?」
胸騒ぎが、した。
「察するに、アンタも気付いてるんだろ?」
主君の命令なら、「請求」なんて言葉は要らない。
主ではない誰か。
この迷彩が、気紛れだとて動くだけの。
(そんなのは、一人しか居ねぇだろっ…)
「あちらさんにアンタに会う気はないみたいだぜ?」
アンタが生きてどこにいんのか、それが知りたかったらしい。
珍しいよな、あんなこと言うなんて。
迷彩が笑う。
会って言葉を交わしたのを思い出すように。
「…なぁ、前田の風来坊さんよ」
アンタの胸騒ぎは優秀だよ、と。
胸騒ぎと奥州に向いた脚。
迷彩は、音もなく地面に降り立って。
けど、
「そんなに動揺するくらいなら、目を離さない方がいいぜ?」
見上げてくる、射る様な瞳。
「アンタと違って、手を伸ばせばいつでも捕まえられる」
それくらい、近くに居るぜ?
主語は言わない。
言わなくても分かっている。
無意識に奥歯を噛んだ。
「…さて、と、俺様は報告に帰るとするかね」
いつものように笑うことも忘れて、露骨に表情を変えてしまった。
それを見、また楽しそうに迷彩は笑い、
「…野暮なこと、しなさんなよ?風来坊」
風のごとく、消えた。
自分の足では追いつくことは叶わない。
焦燥感だけが、だた膨らむばかりで。
「――――…っくしょぉっ…」
風にゆっくりと枝をしならせる桜の下。
呼吸を忘れてしまうほど、夢中になって走りだす。
余裕なんて無い、なんて格好悪いんだ。
それでも、
『…また、逢えたらな』
(逢えたら、じゃなくてさ)
笑みを含んだ声で、軽く手を上げた後ろ姿。
「…花見、どころじゃねぇよな、こりゃ」
あの、蒼に。
何よりも先に、あの蒼に。
自分の居所を気にしてくれている。
あの正直で、不器用な。
愛おしい、蒼。
それからどうやって蒼の元にたどり着いたのか、
正直覚えていない。
それだけ無我夢中だったってことで、許してもらえばいいか。
畳に横たわる後ろ姿。
「藤の花を見に来たぜ、」
ゆっくりと目を開ける蒼に笑って、
感触を確かめるように柔らかい髪を指で梳いた。
前回の続き…というか、裏話。
実は風来坊、迷彩にこんなこと言われてました、ぞっと!(笑)
目を遣ったその桜の下に、幻を見た。
『…また、逢えたらな』
奥州の、蒼。
その言葉が、不意に脳裏に過ぎって。
桜の花はどうでも良かった。
何となく胸騒ぎがして、気がつくと奥州に脚が向いていた。
道中視界に入る春の景色に、
花見と言い訳が出来そうだと安堵する。
杞憂ならいい。
この不安は「あの時」と似ている。
首に提げたお守りを押さえた。
呟くように口唇に名を乗せようとした時。
「意外と近くに居たんだな、前田の風来坊さんよ」
桜に紛れた迷彩。
何故、とは問わない。
「…一番最初のお出迎えがアンタとはな」
少し残念な表情をしたが、迷彩は少しも表情を動かさなかった。
「さて、この俺に何の用だい?」
「用があるのは俺じゃない、…いや、そもそも用事があるわけでもないのか」
迷彩は軽く考える仕草をしたが、
すぐにそれをやめたらしい。
「ま、とりあえずアンタがどこにいるかは突き止めたし」
「俺を探してたのに、用がないってのも寂しいねぇ」
わざとらしく嘆息すると、初めて迷彩が笑う。
桜の枝を手折らぬよう器用に桜の中に隠れて。
「…近くに居てくれて助かったぜ、小さな労力でたっぷりお返しを請求できる」
楽しげな迷彩に、
「…それ、一体誰に請求する気だ?」
胸騒ぎが、した。
「察するに、アンタも気付いてるんだろ?」
主君の命令なら、「請求」なんて言葉は要らない。
主ではない誰か。
この迷彩が、気紛れだとて動くだけの。
(そんなのは、一人しか居ねぇだろっ…)
「あちらさんにアンタに会う気はないみたいだぜ?」
アンタが生きてどこにいんのか、それが知りたかったらしい。
珍しいよな、あんなこと言うなんて。
迷彩が笑う。
会って言葉を交わしたのを思い出すように。
「…なぁ、前田の風来坊さんよ」
アンタの胸騒ぎは優秀だよ、と。
胸騒ぎと奥州に向いた脚。
迷彩は、音もなく地面に降り立って。
けど、
「そんなに動揺するくらいなら、目を離さない方がいいぜ?」
見上げてくる、射る様な瞳。
「アンタと違って、手を伸ばせばいつでも捕まえられる」
それくらい、近くに居るぜ?
主語は言わない。
言わなくても分かっている。
無意識に奥歯を噛んだ。
「…さて、と、俺様は報告に帰るとするかね」
いつものように笑うことも忘れて、露骨に表情を変えてしまった。
それを見、また楽しそうに迷彩は笑い、
「…野暮なこと、しなさんなよ?風来坊」
風のごとく、消えた。
自分の足では追いつくことは叶わない。
焦燥感だけが、だた膨らむばかりで。
「――――…っくしょぉっ…」
風にゆっくりと枝をしならせる桜の下。
呼吸を忘れてしまうほど、夢中になって走りだす。
余裕なんて無い、なんて格好悪いんだ。
それでも、
『…また、逢えたらな』
(逢えたら、じゃなくてさ)
笑みを含んだ声で、軽く手を上げた後ろ姿。
「…花見、どころじゃねぇよな、こりゃ」
あの、蒼に。
何よりも先に、あの蒼に。
自分の居所を気にしてくれている。
あの正直で、不器用な。
愛おしい、蒼。
それからどうやって蒼の元にたどり着いたのか、
正直覚えていない。
それだけ無我夢中だったってことで、許してもらえばいいか。
畳に横たわる後ろ姿。
「藤の花を見に来たぜ、」
ゆっくりと目を開ける蒼に笑って、
感触を確かめるように柔らかい髪を指で梳いた。
前回の続き…というか、裏話。
実は風来坊、迷彩にこんなこと言われてました、ぞっと!(笑)
手を止めて、 ※慶政(←佐?)
ふと、その顔を思い出したのは。
ここ数日続いている暖かい日差しに、咲き綻んだ桜の所為だろうか。
(顔も見てねぇし、…あの能天気な声も聞いてねぇ)
風の向くまま、気の向くまま。
何にも縛られることをよしとしない風来坊は今頃どこにいるやら。
「…で、俺様を呼び出したってわけかい」
わざとらしく大袈裟に驚く忍に、頼む相手を間違えたかと数秒思案したが、
他に当てがあるわけもなく。
有能な右目にはこんなことはできまい。
「言っとくが、俺様は真田の旦那の忍だぜ?」
忍が軽く肩を竦める気配がしたが、
付き合う気がなければわざわざこの場にいるはずがない。
「そうだな、伊達に忍は居ねぇ」
文机に頬杖をついて文に落としていた視線を上げると、
やけに真剣な表情の忍と目が合った。
「…珍しいな、こんなことに俺様を使おうだなんてさ」
「天下獲りに使うわけにはいかねぇだろ、てめぇは敵だ」
忍は即座に距離をつめて。
それは一瞬で息の根を止めてしまえるほどの近距離。
「この貸しは高くつくぜ?…独眼竜」
「借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍」
風来坊の所在が知れたのは、それから翌日。
忍の、本業の片手間の割りに手際が良く正直驚いた。
急いで突き止めろと言ったつもりはないのだが。
「つまり、探しに行かなくても桜追って奥州にもう来てるって話」
無駄な体力使わずにすんで良かったとばかりに言う忍に、
わざとらしく労いの言葉をかけて。
「アンタはさ、あいつが来んのただ待ってりゃいいんじゃないの?」
「別に会うつもりはねぇよ、」
その言葉に、忍は怪訝な表情をする。
「あいつが、生きて何処にいんのか気になっただけだ」
これは本当。
会いたくて、こんな些事を一流の忍(性格はともかく、一応実力は認めている)
に頼んだわけじゃない。
「…へぇ、いつも自分のとこばっかり考えてるようなアンタが、」
言葉ひとつずつ忍はゆっくりと距離を縮めてくる。
「天下獲りに無関係な他の誰かを気にするなんて…妬ける話だねぇ」
「Han!ものは言い様だな」
鼻で笑えば、忍は笑わない。
「じゃあ、独眼竜の旦那さぁ、」
腕を掴んで、吐息が絡まりそうなほどに近く口唇を寄せて。
「あの風来坊が居るとこで、たっぷり借りを返してもらっても問題ないだろ?」
『借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍』
「あいつは、天下獲りには関係ないんだし?」
「…面倒くせぇな、」
露骨に舌打ちすれば、忍はあっさりと手を引いた。
「……と、言いたいところだけど、超刀の餌食にはなりたくないんでね」
開け放たれた襖から風がそよいで、はらりと桜の花びらが畳に落ちる。
「意気地がねぇな」
「旦那に慰めてもらうさ」
忍は風に融けるように消え、それを見送ったまま畳に倒れた。
目を閉じると、焦燥感の滲んだ足音が近づいてくるのが分かった。
「藤の花を見に来たぜ、」
目を開ければ、お馴染みの風来坊。
どこに行ってたのか、と口にしようとして止めた。
(…女じゃあるまいし…)
「…藤の花ってのは、何のjokeだ?」
風来坊は笑って、優しく髪を梳く。それがくすぐったくて仕方ない。
「ホントは、奥州の桜も咲いてるから花見だと思ってたんだけど」
「すりゃあいいじゃねぇか、花見を」
「それよりも目が離せない藤の花がいるもんでさ」
本当に目が離せない、と少し語調を強める話し方に、くくっと喉で笑って。
「俺はてめぇを縛るつもりはねぇ、」
会いたいと言うつもりもないし、傍にいろと命令するつもりもない。
ただ、ふとした時に思い出す。
「目が離せないってんなら、てめぇがちゃんと捕まえてろ」
そう容易く捕まってやるつもりはないが。
「アンタが奥州筆頭じゃなけりゃあ、すぐにでも攫ってやるのにな」
額が触れて、ぽつりと風来坊は呟く。
軽く笑ったら、拗ねたような表情の風来坊に口唇を塞がれた。
「…次は、佐助に探させるのはやめてくれよ」
何か言われたのか?と問えば、返ってくるのは苦笑ばかりで。
畳に縫い止める風来坊の髪をくしゃりと撫でて。
「…どうした?」
(……この手で、繋いでいられるなら)
不意に形を持った叶わぬ想いに、そっと目を閉じた。
ちょいと甘い仕様。
風来坊も蒼様の男前にタジタジ。藤の花…紫=最愛、高貴な色→蒼様的な意図で。
ここ数日続いている暖かい日差しに、咲き綻んだ桜の所為だろうか。
(顔も見てねぇし、…あの能天気な声も聞いてねぇ)
風の向くまま、気の向くまま。
何にも縛られることをよしとしない風来坊は今頃どこにいるやら。
「…で、俺様を呼び出したってわけかい」
わざとらしく大袈裟に驚く忍に、頼む相手を間違えたかと数秒思案したが、
他に当てがあるわけもなく。
有能な右目にはこんなことはできまい。
「言っとくが、俺様は真田の旦那の忍だぜ?」
忍が軽く肩を竦める気配がしたが、
付き合う気がなければわざわざこの場にいるはずがない。
「そうだな、伊達に忍は居ねぇ」
文机に頬杖をついて文に落としていた視線を上げると、
やけに真剣な表情の忍と目が合った。
「…珍しいな、こんなことに俺様を使おうだなんてさ」
「天下獲りに使うわけにはいかねぇだろ、てめぇは敵だ」
忍は即座に距離をつめて。
それは一瞬で息の根を止めてしまえるほどの近距離。
「この貸しは高くつくぜ?…独眼竜」
「借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍」
風来坊の所在が知れたのは、それから翌日。
忍の、本業の片手間の割りに手際が良く正直驚いた。
急いで突き止めろと言ったつもりはないのだが。
「つまり、探しに行かなくても桜追って奥州にもう来てるって話」
無駄な体力使わずにすんで良かったとばかりに言う忍に、
わざとらしく労いの言葉をかけて。
「アンタはさ、あいつが来んのただ待ってりゃいいんじゃないの?」
「別に会うつもりはねぇよ、」
その言葉に、忍は怪訝な表情をする。
「あいつが、生きて何処にいんのか気になっただけだ」
これは本当。
会いたくて、こんな些事を一流の忍(性格はともかく、一応実力は認めている)
に頼んだわけじゃない。
「…へぇ、いつも自分のとこばっかり考えてるようなアンタが、」
言葉ひとつずつ忍はゆっくりと距離を縮めてくる。
「天下獲りに無関係な他の誰かを気にするなんて…妬ける話だねぇ」
「Han!ものは言い様だな」
鼻で笑えば、忍は笑わない。
「じゃあ、独眼竜の旦那さぁ、」
腕を掴んで、吐息が絡まりそうなほどに近く口唇を寄せて。
「あの風来坊が居るとこで、たっぷり借りを返してもらっても問題ないだろ?」
『借りをつくるのは好きじゃねぇが…天下獲り以外でたっぷり返してやるよ、真田の忍』
「あいつは、天下獲りには関係ないんだし?」
「…面倒くせぇな、」
露骨に舌打ちすれば、忍はあっさりと手を引いた。
「……と、言いたいところだけど、超刀の餌食にはなりたくないんでね」
開け放たれた襖から風がそよいで、はらりと桜の花びらが畳に落ちる。
「意気地がねぇな」
「旦那に慰めてもらうさ」
忍は風に融けるように消え、それを見送ったまま畳に倒れた。
目を閉じると、焦燥感の滲んだ足音が近づいてくるのが分かった。
「藤の花を見に来たぜ、」
目を開ければ、お馴染みの風来坊。
どこに行ってたのか、と口にしようとして止めた。
(…女じゃあるまいし…)
「…藤の花ってのは、何のjokeだ?」
風来坊は笑って、優しく髪を梳く。それがくすぐったくて仕方ない。
「ホントは、奥州の桜も咲いてるから花見だと思ってたんだけど」
「すりゃあいいじゃねぇか、花見を」
「それよりも目が離せない藤の花がいるもんでさ」
本当に目が離せない、と少し語調を強める話し方に、くくっと喉で笑って。
「俺はてめぇを縛るつもりはねぇ、」
会いたいと言うつもりもないし、傍にいろと命令するつもりもない。
ただ、ふとした時に思い出す。
「目が離せないってんなら、てめぇがちゃんと捕まえてろ」
そう容易く捕まってやるつもりはないが。
「アンタが奥州筆頭じゃなけりゃあ、すぐにでも攫ってやるのにな」
額が触れて、ぽつりと風来坊は呟く。
軽く笑ったら、拗ねたような表情の風来坊に口唇を塞がれた。
「…次は、佐助に探させるのはやめてくれよ」
何か言われたのか?と問えば、返ってくるのは苦笑ばかりで。
畳に縫い止める風来坊の髪をくしゃりと撫でて。
「…どうした?」
(……この手で、繋いでいられるなら)
不意に形を持った叶わぬ想いに、そっと目を閉じた。
ちょいと甘い仕様。
風来坊も蒼様の男前にタジタジ。藤の花…紫=最愛、高貴な色→蒼様的な意図で。
発作のように繰り返す、
諦めてしまった、あの時。
得物が大振りで馬鹿みたいにでかいのは、
切っ先を向ける相手を見たくないから。
人を斬ったり倒したり、その感触は消えることなく手に残っていて。
相手の動きをみれば、無意識に身体が回避・反撃の動きをする。
染み付いた闇は、いつまでも拭えなくて。
「…人を斬る感触ってのは、嫌だねぇ」
得物はでかくて、些細な感触が手に残らないほうがいい。
気付いてしまえば、いつだって「あの時」に戻ってしまう。
「だから戦は好きじゃない」
我ながら珍しく饒舌だと思いながら、退屈そうに煙管を持つ蒼に視線を向けて。
「戦はみーんな、祭りになっちまえばいいのに」
「Ha!てめぇみたいな馬鹿が増えたら面倒だろうが」
蒼は呆れたように笑うのに、なぜか、笑い返すことが出来なかった。
「なぁ、」
近づいてその着物の裾を軽く掴む。
「今日は此処に置いてくんねぇ?」
それはお願いではなく、確認。
「…でけぇ図体は邪魔だからな、」
断られたのかと、思った。
「とりあえず、枕になれ」
「はいはい、膝ならいくらでも貸しますよ、」
笑ったら、軽く頭を殴られた。
「膝じゃねーよ、腕だ、腕」
本気で目の前の男が何を言ってるのか理解できなかった。
自分より小さな身体がひっついてくるのは慣れている。
子どもは存外こういうことを喜ぶから。
「あのー…政宗、さん?」
背中に回される腕。
近すぎるほど近くに感じる体温。
「枕は喋らねーだろ」
ぶっきらぼうな言葉に苦笑する。
腕は枕として使用中で、逃げるという選択肢はそもそもない。
(…ダメだな、思い出す)
あの時、この両腕でかき抱いたのは。
温もりを失った愛しき人。
それを奪ったのは唯一無二の友。
男は強さを得るために弱きを捨てた。
弱きを捨てなければ強くなれないと言うなら強さなどいらない。
だけどただ、ひとつ。
譲れない想いがあって。
「…アンタはさ、幸せかい?」
「――――さぁ、な」
希(コイネガ)う。
幸せってのがどんなものか知らないという蒼に、
少しでも多く幸せが降り注ぐように。
「…俺はさ、みんなが幸せなら、それでいいんだよ」
自分は諦めてしまったから。
「…それが、いいんだ」
幸せを願えば願うほど、壊れたものを思い出して臆病になる。
自分の幸せを望むことができなくなって。
「てめぇの言う“幸せ”がどんなもんかは知らねぇが、」
蒼は、言う。
「そういうのは、てめぇも幸せじゃなきゃできねぇんじゃねーのか?」
誰かの幸せを望むことは。
「…そ、か、じゃあ…どうしようかな」
諦めてしまった自分には、出来ないこと?
「まぁ、そんときゃ俺がみんな幸せにしてやるよ」
幸せを知らない、蒼は、言う。
「そうすりゃ、てめぇも幸せなんだろ?」
それでこの話は終わりだ、いい加減ゆっくり寝かせろ。
蒼はそう事も無げに言って黙り込んだ。
蒼は知っていたのだろうか?
見抜いていたのだろうか?
だから。
『とりあえず、枕になれ』
許してくれた?
『膝じゃねーよ、腕だ、腕』
抱きしめてくれた?
あぁ、この温もりはこんなにも優しい。
(…やべ、泣きそう…)
そんなことを口にすれば、
きっとこの男は「じゃあ泣きゃあいいじゃねぇか」と至極真面目な表情で言うのだろうが。
引き続き、傾奇者と蒼様の話。
殆ど自分の胸の内を明かさない傾奇者でも、たまには蒼様に本音を見せることもあっていいんではないかと。
秀吉とねねさんのことを、ぼんやりぼかしで。でもやっぱりイマイチ口調が分からない…orz
得物が大振りで馬鹿みたいにでかいのは、
切っ先を向ける相手を見たくないから。
人を斬ったり倒したり、その感触は消えることなく手に残っていて。
相手の動きをみれば、無意識に身体が回避・反撃の動きをする。
染み付いた闇は、いつまでも拭えなくて。
「…人を斬る感触ってのは、嫌だねぇ」
得物はでかくて、些細な感触が手に残らないほうがいい。
気付いてしまえば、いつだって「あの時」に戻ってしまう。
「だから戦は好きじゃない」
我ながら珍しく饒舌だと思いながら、退屈そうに煙管を持つ蒼に視線を向けて。
「戦はみーんな、祭りになっちまえばいいのに」
「Ha!てめぇみたいな馬鹿が増えたら面倒だろうが」
蒼は呆れたように笑うのに、なぜか、笑い返すことが出来なかった。
「なぁ、」
近づいてその着物の裾を軽く掴む。
「今日は此処に置いてくんねぇ?」
それはお願いではなく、確認。
「…でけぇ図体は邪魔だからな、」
断られたのかと、思った。
「とりあえず、枕になれ」
「はいはい、膝ならいくらでも貸しますよ、」
笑ったら、軽く頭を殴られた。
「膝じゃねーよ、腕だ、腕」
本気で目の前の男が何を言ってるのか理解できなかった。
自分より小さな身体がひっついてくるのは慣れている。
子どもは存外こういうことを喜ぶから。
「あのー…政宗、さん?」
背中に回される腕。
近すぎるほど近くに感じる体温。
「枕は喋らねーだろ」
ぶっきらぼうな言葉に苦笑する。
腕は枕として使用中で、逃げるという選択肢はそもそもない。
(…ダメだな、思い出す)
あの時、この両腕でかき抱いたのは。
温もりを失った愛しき人。
それを奪ったのは唯一無二の友。
男は強さを得るために弱きを捨てた。
弱きを捨てなければ強くなれないと言うなら強さなどいらない。
だけどただ、ひとつ。
譲れない想いがあって。
「…アンタはさ、幸せかい?」
「――――さぁ、な」
希(コイネガ)う。
幸せってのがどんなものか知らないという蒼に、
少しでも多く幸せが降り注ぐように。
「…俺はさ、みんなが幸せなら、それでいいんだよ」
自分は諦めてしまったから。
「…それが、いいんだ」
幸せを願えば願うほど、壊れたものを思い出して臆病になる。
自分の幸せを望むことができなくなって。
「てめぇの言う“幸せ”がどんなもんかは知らねぇが、」
蒼は、言う。
「そういうのは、てめぇも幸せじゃなきゃできねぇんじゃねーのか?」
誰かの幸せを望むことは。
「…そ、か、じゃあ…どうしようかな」
諦めてしまった自分には、出来ないこと?
「まぁ、そんときゃ俺がみんな幸せにしてやるよ」
幸せを知らない、蒼は、言う。
「そうすりゃ、てめぇも幸せなんだろ?」
それでこの話は終わりだ、いい加減ゆっくり寝かせろ。
蒼はそう事も無げに言って黙り込んだ。
蒼は知っていたのだろうか?
見抜いていたのだろうか?
だから。
『とりあえず、枕になれ』
許してくれた?
『膝じゃねーよ、腕だ、腕』
抱きしめてくれた?
あぁ、この温もりはこんなにも優しい。
(…やべ、泣きそう…)
そんなことを口にすれば、
きっとこの男は「じゃあ泣きゃあいいじゃねぇか」と至極真面目な表情で言うのだろうが。
引き続き、傾奇者と蒼様の話。
殆ど自分の胸の内を明かさない傾奇者でも、たまには蒼様に本音を見せることもあっていいんではないかと。
秀吉とねねさんのことを、ぼんやりぼかしで。でもやっぱりイマイチ口調が分からない…orz
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職業:
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趣味:
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自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。