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Ⅵ.ストレイシープ 3

カーテンの隙間から覗く細い光り。その光りに照らされるようにこぼれた長い黒髪。甘い空気はいつもとさして変わらない。ぼんやりと綺麗な黒髪を弄んでいると、彼女がその光りに手を伸ばした。
とても、綺麗だった。
「…綺麗」
俺に背を向ける彼女は小さく呟く。俺が何も言わずそれを眺めていると、それに気づいているのかいないのか、彼女はぽつりと話し始めた。
「…探している人が居るの。私の…大切な人」
「…へぇ。でも、その探し人は男じゃないんでしょう?そうなら、貴女がこんなに安っぽく自分を貶めるはずがない」
俺の言葉には直接応えず、彼女は曖昧な笑みを浮かべた。
「――――偶然、“此処”に迷い込んでしまったの」
「じゃあ、貴女はそれを知って追って来たと…?」
彼女は頷いて身体を起こした。
「…貴女は知らないわけじゃないでしょう?“此処”がどんな場所か。それでも、“此処”にやって来るほど大切な人?」
「えぇ。私に出来ること総てで守りたいから」
俺は彼女の背中から腕を廻して引き寄せると、肩に口付ける。
「―――――そんな大切だなんて、少し妬けちゃうな」
「…あら、そんな感情の経験があるようには見えないけれど?」
“寄ってくる女の人なんて、数え切れないほど居るでしょうに”そう付け加えて彼女は笑った。俺はその言葉に苦笑する。
「…これは手厳しい一言だ」
彼女は俺の腕から逃れ、椅子に掛けた服に腕を通した。俺もベッドから出、服に手を伸ばす。
「でも、俺じゃあ力になれそうにない。一応、情報屋にも話しておきましょうか?」
「…いえ、いいの」
彼女は僅かに戸惑っているように見えた。
「散々探し回った挙げ句、探し人は見つからないかもしれませんよ?」
そんなに気にかかったわけではなかったが、俺は彼女に問う。これも、逸らかされてしまうのだろうか。だが、彼女は笑って俺を見た。
「…それでも、いいのかもしれない」
ただ、その笑みはどこか自嘲した節があって。俺はらしくもなく手を止めた。言うなれば、ただ純粋に感じる疑問。
「…どうして?」

「そうね…多分、ずっと片想いで居たいから」

彼女は一足先に身支度を済ませると、かけてあったコートを持って来た。俺も、急いで(気持ちだけはね)身支度を整えた。そして、彼女の差し出すコートに腕を通した。普段はあんまり人に背中向けたりはしないのだが。
「こんな素敵な送り出しまでついてくるとは思いませんでしたよ」
「あら、これは送る側の当然の義務でしょう?」
彼女はとぼけたようにそう言った。そこに自嘲したあの表情は見られなかった。
「――――ねぇ、死神さん。貴方は私を殺していかないの?」
「殺すことは簡単ですよ。でも、貴女には生きることのほうが余程辛いでしょうから。死神は万能ではないし、優しくもありませんよ」
俺の言葉に彼女は苦笑する。
「でも…その代わりに、」
俺は彼女の口唇を塞いだ。そして、彼女の顔を見ずに部屋を出た。勿論、彼女を殺すこともなく。
 
外に出ると、やはり寒かった。やけに寒いことを意識するのは、体温が離れた所為か。そんなこと考えたことなかったが。片手をポケットから出して眺める。この手が触れた艶やかな黒髪と、体温と、隙間から覗いた細い光り。
「…えぇ、綺麗でしたよ」
独り言にしてはやけに弁解染みたのを拭えない感じ。そんな自分に呆れながら、歩みを速める。あの病的な珈琲が飲みたい。
しばし歩いてボーダーラインに辿り着く。ドアを開けて中に入った時、聞こえる明るい声。俺は目の前の光景に目を丸くした。
「獅戯さん、これはこっちの棚でいいですか?」
「あぁ、」
歩き回る氷響と目が合った。
「あ、神津さん、こんにちは」
こんにちは、であってるのか?疑問はさて置き、俺はにっこり笑う氷響に笑みを返した。こういうコミュニケーションは大事。
「…何やってんの?あれ」
俺はカウンターに座るなり、小声で獅戯に問う。
「手伝いだろ、どう見たって」
「そういうことじゃなくって…よく許したねぇ、パパ?」
ボーダーラインに来る連中と関わらせるのも危ない、みたく警戒していた獅戯にしては異例だ。俺は頬杖をついて、獅戯を茶化すように見る。それを冷たく一瞥される。
「何か手伝いがしたいんだと。上を借りてるお礼だそうだ。まだ、外には出られねぇからな」
「ははぁ…そういうことか。だから目の届く所でバイト、ですか」
俺の目の前に乱暴に置かれる珈琲。
「あちっ」
しかもちょっと跳ねた。でも心配するのはあくまで、乱暴に置かれたカップやカウンターの方なんだろうな。獅戯が俺に(むしろ俺だけに)冷ややかなのは周知の事実。
「そういうお前も慣れない馨をつけてるな」
「ん―――?」
俺は火滋曰く犯罪的に苦い珈琲を啜って、眉間に皺を寄せる。苦。
「あぁ、まぁね。“此処”じゃ有り得ないくらいの美人に誘われたんじゃ、断るなんて失礼なことできないでしょ。ま、個人的にはそんなに嫌いじゃないんですけどね…コレ。もっと悪趣味などぎついのつけてる女も居るわけだし」
「…“流離”か、」
「間違いなく」
俺はまた珈琲を啜って、働き者の氷響を見た。

「――――初めてだよ、殺さなかった女なんて」

呟いて珈琲を置く。そして、ぼんやりと飲みかけの珈琲を眺めた。すると、獅戯が手を止めた。近付いてくる足音。その足音の主は俺の後ろを通って、一つ椅子を空けた先。そこに、座った。
「おや、これはこれは紫闇くんじゃないですか。珍しいな、こんな時間に」
紫闇はいつも以上の不機嫌な表情。
「貴様は随分ご機嫌だな」
「そういうお前さんは相変わらず不機嫌だな。…まぁ、俺はいい夜を過ごしたんで」
「その不適切な口は開けない方が良心的だな。だがそれでも開けたい時はいつでも俺に言え。口という存在ごと跡形もなく切り裂いてやる」
紫闇の言葉、どこまで本気か。いや、いつも本気だなこいつは。
「そりゃどーも、ご丁寧に。…で、そんなことわざわざ言いに来たワケじゃないんだろ?」
紫闇はちらりとフロアに視線を向ける。そこに何があるのかは考える必要もない。
「あいつに何か教えてやったのか?」
「俺は何も。“此処”のノウハウなら火滋が教えてると思うけど」
「…それでいいのか?」
俺は小さく肩を竦めた。紫闇が危惧するもの。氷響を助けたら助けたで、面倒は全面的に火滋に押し付けておきながら気にする。個人的に、紫闇のそういう割り切れない生温さは気に入ってる。
「もうちょいさ、時間かけてもいいと思うんだよね。先は長いんだし」
我ながら、やけに暈した言い方だとは思う。だが、紫闇はそれ以上何も言わなかった。
「にしても、若いって良いよねぇ…」
俺がフロアに視線を向けるとそれに気づいて氷響が顔を上げる。一瞬キョトンとした表情は、すぐに満面の笑みに変わる。俺もそれにつられて思わず笑ってしまう。
「順応性が高いって言うの?あの子みたいの」
「空元気くらいするだろ」
後ろで呆れたように即答する紫闇。まさか紫闇の口からそんな言葉が出るとは思わず、俺は驚いて紫闇を見た。
「…何だよ」
本人は自分のしでかしたことを理解してない様子。黙っていた方が面白いに決まってる。
「別に、」
「お前は、中身が実年齢より老けすぎなんだよ。糞オヤジが」
紫闇は立ち上がって歩き出す。
「あれ、もう行っちゃうの?」
「お前と居ても楽しくないからな」
そう不機嫌な表情で言うなり、紫闇は去っていった。
「あっ、紫闇さんっ!えと、ちょっと出てきます」
それを慌てて氷響が追って出ていった。
「…いいの?」
「紫闇が居るんなら心配ねぇだろ」
ごもっとも。仮にも“此処”で最強の五本指に入る紫闇だ。カオスなど言うまでもなく、人間相手だろうが先ず負けない。紫闇に道を譲る者はあっても、それを正面から妨げようとするやつは相当世間知らずかただの馬鹿くらいだ。どっちにしろそんな奴にお目にかかる機会があったら、その勇気を称えてやろうと思っている。
「…しっかし、相変わらず可愛い奴だねぇ…あいつは。氷響ちゃんにもすっかり懐かれちゃって」
「あんまり威勢良くさせとくなよ」
「…何?アレは俺の管轄なワケですか」
口を挟んで来た獅戯に俺は困った様に笑う。
「否定なら早めにしておけ。老けてるのは趣味で、中身は誰よりもガキだってな」
その見事なまでの淡々とした物言い。
「紫闇どうこうより心に深く刺さることを、次々言わないでくれません?バーテンさん。流石に俺だって傷つきますって」
「そうか」
うわっ、容赦なく流しやがった。俺はいじけるようにすっかり冷めた珈琲を飲み干した。

「――――あのさ、俺とんでもないもん抱えてるんだけど…しょってくれません?」

共犯者にならないかの誘いに、獅戯はただ怪訝そうな表情を俺に向けた。

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Ⅵ.ストレイシープ 2

時間が経つにつれて、始めは騒がしかった店内が少しずつ落ち着いてくる。俺はこの時間帯が実はかなり好きだ。小さくなった雑音は、なかなかチャンネルの合わないラジオを聞いているような感じがして妙に落ち着くのだ。氷響をカウンターに座らせて、これまでの経緯を聞く。氷響は話下手というわけでもなかったが、自分の頭の中を必死で整理しながら話しているといった風だった。その中で、
俺たちは幾らかの要領を得た。
「――――というわけで、車に轢かれそうになった所を…こう、ふわぁっと」
「堕ちたってワケか」
話し終わった後も、氷響は腑に落ちない表情だ。どんなに整理しても訳が分からず、困惑しているのだと見て取れる。
「…でも、珍しいんじゃないですか?そんな所にアウトラインがあるだなんて」
「出来た、と言った方が自然だろうな」
獅戯の言葉に、全員の視線が獅戯を捉える。どういうことか、続きを促すためだ。その点、獅戯は大して動じた様子もなく、作業を続けている。
「最近“流離”が多いのと、関係あるんだろ」
「“流離”?」
その疑問を俺が補足する。
「“外”からの訪問者のことだよ。意志のあるナシ関係なく、“此処”に来ちゃった人のことね」
それを聞いて火滋が、面白そうに笑う。
「何だか、俄然興味湧いてきちゃいましたよ。“流離”とアウトラインの関係性なんて」
「火滋の習性みたいなもんさ。興味の度合いで動く」
俺の補足に、氷響が笑う。
「本ト、ちょっと変わってるかも」
「でもまぁ、僕の情報を必要としてくれている人は居ますからね。興味が薄くたって、やるべきことはちゃんとこなしますよ。信頼に関わることですし」
氷響が笑い、火滋はその反応に照れ臭そうに笑った。
その時、端の席から限が立ち上がった。
「…帰るのか?」
獅戯が抜かりなく声を掛ける。
「――――少し、風に当たってから、」
呟く限の声。俺はそれに便乗した。
「んじゃあ、俺が送るよ」
「…別に、」
「こういう時は素直に聞いとくもんよ?」
俺は限にいつもの笑顔を見せて、反対を無理矢理止めた。
「手ェ出すなよ」
獅戯がどこまで本気か解からないような言い方をした。限は確かに歳の割りに大人びている所為か綺麗だが、俺が女というより妹に近い感じで意識している為、手を出したことやそんな素振りすらも見せたことはない。それを獅戯が知らないはずはないのだが…多分。
「氷響ちゃんは、しばらく此処に居るといい。“此処”じゃあ一番安全な場所だし。何たって、凄腕のバーテンさんがいらっしゃいますから。解らないことがあれば、一番の情報屋である火滋に聞けば一発だ」
「はい、ありがとうございます、神津さん」
氷響は俺にそう言いつつ、後ろに立つ限を頻りに気にしてる様子だ。
「氷響ちゃん?」
氷響は意を決したのか、椅子から立ち上がると限の前に立った。限は表情を変えずに、氷響を見ている。俺は双方をちらりと見る。
「…あ、あのっ!限さん…その…仲良くなってもらえませんか!?」
勢いに任せて言い終わると、恥ずかしそうに俯いて小さくなる氷響。俺も火滋もその告白じみた言葉
に笑い、獅戯も表情を和らげた。ただ限だけが、慣れないのか戸惑った表情をしている。
「だってさ、」
限は一度俺を見た。そして、またその視線を氷響に向ける。
「――――限で、いい」
それが、限の応えだった。
「…話し方も、普通でいい。そういうの…あまり得意じゃないけど」
氷響はその言葉に表情をぱっと明るくして笑った。
「うんっ!」
つられる様に、限も微かに笑った。
「…さて、一大告白も見事両想いになったワケだし、そろそろ行くか」
俺の言葉に頷いて、限が歩き出す。俺はカウンターに座るみんなに手をヒラヒラと振って、限を追う様に歩き出した。
 
ボーダーラインを出てからしばし歩いて、俺は冷たく吹く風に首を竦めた。
「本ト、寒いな」
数歩先を歩く限の表情は見えない。そして、限の応えはない。
「――――怒ってる?」
「…別に、」
俺の質問にも限はそう呟いただけだった。沈黙が嫌だったわけではないが、俺は話の矛先を変えてみることにした。
「それにしても、氷響ちゃんは良い子だな」
氷響の名前が出た途端に、限を取り巻く空気が少し柔かくなったのは気のせいだろうか?
「…あんな子、初めて」
ぽつりと、限が言った。
「今まで向けられたことのないような、不思議な感情を真っ直ぐに向けてくる」
「…嬉しかった?」
「――――少し、」
戸惑いながら発された限の言葉に、俺はふっと笑った。
「…そう」
歩く速さが落ちた限に追いついて、今度は俺が数歩先を歩くことになる。
「あ、」
限の小さな声に振り返ると、その視界を蝶が過った。互いの視線はその蝶を追った。
「蝶か」
限はその蝶に向かってゆっくりと手を伸ばす。すっと伸びた綺麗な指先。その指に躊躇いがちに寄って来た蝶は、やがて羽を休めた。限は完全に足を止め、俺も止まっていた。冷たい風が、体温を攫っていく。その時俺は、蝶を見て思い出した。忘れていたわけではないから、思い出したというもの変なのかもしれないが。
「…そういや、あいつは蝶に好かれてたな」
限が表情を動かしたのがはっきりと解った。勿論、望んでいたわけじゃないが。すると、まるで蝶を振り払うように手を下ろした。
「…そんなことを言う為に、ついて来たの?」
「いいや」
俺は即答する。帰りがけに蝶に出くわすことなど予想できるはずがない。俺の即答に限は一度俺をじっと見て、そして早足で俺を抜き歩き去った。
そう、『偶然』蝶に出くわしたのだ。だから、『偶然』俺は思い出した。そして『偶然』口にした。ただ、それだけだ。だが。
「…全く、揺れすぎだよ、限ちゃん」
それでも、ちょっと悪戯が成功した様な感覚に俺は苦笑した。
「さてと、」
視界の脇で蠢くカオス。俺は落ちて来た眼鏡を直して、鎌を具現化させると一閃した。一振りによって起こった冷たい風。
「――――大丈夫ですか?お嬢さん」
向けた視線の先。そこには冷たい風にはためいたショールを直したひとりの女性が立っていた。俺はひとまず鎌を下ろし、彼女の方に歩き出す。すると彼女の方も俺の方に近付いてきた。
「…お嬢さん、って年齢でもないと思うのだけど」
彼女は微笑んでそう言った。
「…そうですか?」
お互いの丁度中間地点。俺はとぼけたように彼女を見た。
「でも、お姉さん、じゃあ格好つかないでしょ?俺が」
背後のカオスに気づいて、俺は彼女の腕を引いた。抱き留めるような体勢で、俺は鎌を一閃した。
「人の恋路を邪魔するなんて、とんでもな無礼者だなぁ」
ただの肉塊と化したカオスを笑わない目で一瞥した。
「…ありがとう」
俺から僅かに身体を離して、彼女はまた微笑んだ。
「でも、こんな安っぽい女にまで、そんな扱いの必要はないのじゃなくて?」
「安っぽいだなんて、とんでもない」
ひとつひとつの仕種。着ている物も、見せる表情も、選んで使う言葉も、安っぽい女では考えられないほどしっかりしている。そもそも、“此処”で生き残っている女は少ない。俺は鎌を解いたが、彼女の手を身体を離そうとはしなかった。
「…こんなに聡明そうな美人じゃあね。一体、俺に何の用です?」
彼女は俺の反応に、楽しそうに笑った。
「そんなに高く評価してもらえるなんて。じゃあ、私は殺されずに済むのかしら?」
今度は俺が笑った。俺は女と一晩を過ごした後、その女を消す。何だか癖みたいになったその行為を彼女は知っている様子。それ以外にも、一応『死神』の異名を持つ俺だ。どうやら、そっちの方面もご存知というわけか。
「…それじゃあ、色々とご存知なわけですか」
「でも…容易く殺される気はなくてよ?」
『死神』の腕に抱かれて逃れられないというのに、この堂々とした態度。俺はそれをえらく気に入った。他の女とは一味違うってわけだ。
「貴女が殺されるわけにはいかない理由と、俺への用は繋がっているのかな?…勿論、詳しく聞かせてもらえますよね?」
俺は、彼女を捉える手を腰に廻した。何を求めているか。それを彼女が理解できない人だとは思っていない。彼女はその行為に笑っただけだった。
「…説明なんて、後回しで構わないでしょう?“此処”の夜は短いと聞くわ」
その艶やかな笑みを浮かべる彼女の口唇に、俺は触れるだけのキスを落とした。

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Ⅵ.ストレイシープ 1

今にも星が零れ落ちてきそうな空。
強がりも弱さもすべて包み込むような、こんな夜が嫌いになったのはいつからだろう?
よく、憶えていない。
 
「はぁっ、はぁっ…」
逃げるモノと追う者。
そこに存在する互いには、違いなどないはずだ。
でも、存在する決定的な相異。
「…鬼ごっこは、そろそろ終わりにしないか?」
向けられる人懐っこい笑みに返されるのは、少年の内の“怒り”と“恐怖”と。
「…どうしてっ、…どうして殺されなきゃいけないんだっ!」
向かう先の知らない、“疑問”。
「…だって、俺は何も悪いことなんてしてないのにっ」
少年は退路を断った男を睨み付けて叫んだ。
その夜の闇は、男が曇らせた表情をすっかり覆い隠していた。
「――――そうだな、悪いことはしてないよ。お前たちが出来ることなんて、“此処”じゃあ日常茶飯事だ。けど、左腕…よく見てみろ」
薄暗い箱の中の唯一の光源は月の光り。
その月光に曝された腕を見た少年は、その表情を真っ青にした。
音もない、気配を消した侵喰者。
「…俺にとっては、それだけで十分なんだよ」
男がカチャリと上げた眼鏡は、光りに反射した。
「…嫌だ、来るなっ。…嫌だぁぁあぁぁぁっ!!」
男は後ろ手に鎌を具現化させ、その腕を振った。
それは一瞬。
その軌道さえ、少年には見えなかったに違いない。
そして自分がどうなったのか、感知する前に少年は事切れた。
風化した部分と、目の前に散った肉塊。
男はそれに何の反応もせず、手の鎌を解いてそのまま立ち去った。
 
タイミング悪く見つけた“流離(ナガレ)”。
ほんの数分前に仕留めた小僧を思い出す。
感傷的になったわけでもない。そんなもの、俺の中にはないから。
殺しを楽しいとは思わないし、好んでしたいとも思わないが…まだ人間だったのを殺したのはもう何度目だ?
それより、もうひとりの女の子を追いかけた限の方はどうなっただろう。
途中まで一緒に逃げていたが、最後に行き先が別れたから俺の居るこの場所に女の子は居ない。限とは終わった後待ち合わせをしているわけじゃないから、遭遇できるかどうか。…あ、遭遇できた。
「そっちも終わったんだな」
階段から下りてくる限を見上げると、一瞬視線が合った。
「…えぇ」
ポケットに両手を突っ込んで、限が追いつくのを待つ。その時、気づいたこと。
「あれ、ここ…血が染みになってる。…珍しいな、限ちゃんが返り血なんて」
しゃがんでコートの裾を掴む。あー、染み抜き持ってくりゃ良かった。
「―――神津、揚羽は…どんな人だった?」
手を離して立ち上がる。
一体どんな意図をもって発された言葉なのかさっぱり見当がつかない…というわけでもないが。限に任せたあの女の子が何らかの感傷を呼び起こしたのか。それとも、似た何かを見つけたのだろうか。
「それは、限ちゃんの方が知ってるでしょうが。…何でも出来る王子様だよ、あいつは」
「…じゃあ、何で」
キエテシマッタノ?
歩き出す俺の背中にぶつかった小さな呟き。
不覚にも耳に届いてしまったそれを無視した。
「限、ボーダーラインに行って暖かいもんでも飲もうぜ」
限が追いつくと、俺たちは歩き出す。まるで何事もなかったかの様に。
 
「あ、師匠(センセイ)と限さん…」
火滋の声に片手を上げて応じると、その横に座った。一方の限は定位置のカウンター一番端に座った。
「珈琲、濃ゆーくて、苦ーいやつ」
獅戯にそう告げて、カウンターに頬杖をついた。
「一緒だったのか、珍しいな」
「何?なんか勘ぐってたりすんの?」
「アホ」
僅かに身を乗り出していうと、獅戯は目を細めて俺を一瞥した。
俺は横に開かれたパソコンの画面に視線を注いでいたが、火滋はちらりと限の方を見ていたようだ。
「でも、本ト珍しいですね。限さん、ひとりのこと多いですし」
小さく囁くような火滋の声に、パソコンの画面から視線を外す。じっと見てたけど、よく解からない。
「偶然だよ。偶然、たまたまカオスに侵喰された“流離”の兄妹らしき子どもたちと鉢合わせしちゃってねぇ。更にそれを追っている最中に限ちゃんとバッタリ」
「最近多いな、“流離”が」
ようやくお待ちかねの珈琲が目の前に置かれた。見た目、病的なほど濃くあからさまに身体に悪そうな真っ黒。
「頻発しているカオスと、何か関係がありそうですね。しかし、道端に肉塊がゴロゴロしていて、かなり迷惑なんですけど」
「そういや、何だか今日は変な天気の兆候だな…」
困り顔の火滋を見、窓の方を眺めながら珈琲を啜る。強烈な苦さと、苦さ。というか、苦いしかない。俺は露骨に眉間に皺を寄せた。
「…そんな犯罪的に苦い珈琲、よく飲めますね」
火滋の呆れた一言に応えようとするより一足早く、獅戯が口を挟んだ。
「俺は飲めないもんなんて出さねぇよ」
火滋が獅戯を見、俺を見、妙に納得したような表情になった。
「――――納得です」
「…なーんか起こりそうな予感だよな」
「やっ、やめて下さいよ師匠っ!そんなこと言って、殆ど的中するんですからっ」
火滋のすごく嫌そうな表情。
「そんなこと言われたって、そんな気がすんだからしょうがな…」
「あ―――、あ―――っ!」
火滋は耳を塞いで大きな声を上げる。こいつ、完全に無視の方向できやがった。一切何も聞いてないってわけか…。
「そうはいかないからな、火滋ィ…」
珈琲を置いて、火滋の耳を塞ぐ両手を引き剥がす。
「僕は何も聞いてませんからねっ」
必死で抗う火滋の手を完全に剥がした。俺の勝ち。
「現実から目をそら…」
「ちょ、待っ…」
俺の声を遮る声。人の間をすり抜けて現れたのは紫闇だった。とりあえず、あの声は紫闇じゃないわな。じゃあ、誰だ?紫闇はその声を完全に無視だ。
「あ、紫闇さん、こんにちは」
「あぁ。…厄介なもん連れて来た。後頼んだ」
「…はい?」
紫闇はそう言って、限の方に歩き去る。それを横目に、じっと声の方向を見ていた。誰なのか。紫闇が何を連れて来たんだかさっぱり見当がつかない。
「あぁっ、ごめんなさいっ!すみませんっ…え、あ、おっとっとっと…」
俺はカウンターの椅子から下りた。
「ぅわぁっ!!」
見えたのは高校生くらいの女の子。俺は倒れかけるその身体を受け止めた。タイミングもばっちり予想通り。
「…っと、大丈夫?」
「…うぅ…はい。ありがとうござい…ましたっ!!」
俺から身体を突き放す。抱きしめられた格好に気づいたのか、耳まで赤くなるそんな反応がちょっと可愛い。
「アラ、残念」
そのまま俺はその女の子を引いてカウンターに座る。
「そんなことっ…」
途端に聞こえたのは限の感情的な声。滅多に聞かないその声に、俺たちは視線を向ける。
「ちっ…」
強引に紫闇は限の口唇を塞いでいた。
「きゃっ…」
「やるんなら、余所でやれ」
女の子の恥ずかしげな声に、獅戯の低く冷たい声。紫闇の首元につきつけられた果物ナイフと、睨み合う紫闇と獅戯。それを目にした火滋は大袈裟に溜め息を吐いたが、俺の内には可笑しさが込み上げてきた。笑うのもどうかと思ったが、抑え切れなくて肩を震わす。少なくとも火滋は俺が爆笑してることに気づいているはずだ。そうこうしてる間に、紫闇が引いてボーダーラインを出て行った。
「…まるで娘を取り合うパパと彼氏だな…」
俺への一瞥も忘れずに。
「…あの様子じゃあ、帰りがけに軽く何十人か殺って行きそうですね」
「やるだろ、間違いなく」
「あでっ」
獅戯からさり気無く拳骨がとんできた。地味に痛い。
「…あの、殺るって…人を、ですか?だったら止めた方が…」
俺は痛みの残る頭を擦る。
「いやいや、それはしないよ…多分。あいつが八つ当たりに殺るのはカオスだろ」
「…カオス?」
女の子の反応に応じたのは火滋だった。
「人であり、人ならざるもの。土気色で腐ったような肉塊です。此処に来るまでに遭遇しませんでしたか?」
「そういえば…私が目を瞑っている間に、確かあの人が斬っていたような気が…」
女の子は嫌なことでも思い出したのか、気分悪そうな表情になる。それを逸らすように、俺はにっこりと笑った。
「そうそう、ずっと言おうと思ってたんだけど…名前、そろそろ教えてもらえない?」
「すっ、すみませんっ。そうですよね、私、氷響(ヒビキ)です」
落ち込んだり、慌てたり、くるくると表情の変わる子だ。ま、それがなかなか可愛いんだけど。
「俺は神津(コウツ)。こっちが火滋(カジ)で、あの美人さんが限(キリ)ちゃん。さっきのが紫闇(シアン)。で、この人が…」
「獅戯(シキ)だ」
女の子―――氷響は、それぞれに小さく頭を下げる。
「じゃあ、本題に入ろうか。君がどうして“此処”に居るのかを、ね」
俺は氷響に向かってウインクした。

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Ⅴ.“底”は“BORDER LINE” 4

茉咲はそんなことがあってから数年して姿を消した。俺の目の前で消えたはずだから、多分『放棄』したんだ。あんなことの後だから、何となく予想できたところはあるんだけど。
でもあの人は“此処”に居続けた。お陰で、俺が茉咲からあの人を押しつけられた様な形になってしまった。
「――――まだ、死なないのか」
苦痛に表情を歪ませながら、あの人は言った。もう何度目か分からない。あの人は“此処”での常識が意図的に欠如してる人間だった。奇跡的に一度だけ、あの人が刀を抜いたところを見たことがあった俺は、その強さとあの時に感じた圧倒的な力を忘れていない。それだけの実力を持っていながら、あの人はカオスを殺すことが出来なかった。
「…紫闇は?」
「此処には居ないよ」
俺は部屋の窓際の壁に寄り掛かって、座っていた。
「追いかけようかな」
「そんな状態で何言ってんの」
俺の言葉にあの人は笑って、
「でも紫闇はまだ…刀を遣いこなせてないから」
と言った。紫闇はあの人を意図的に避けていた。その理由は俺にも少しだけ分かる。カオス如きを殺すことも出来ないくせに、紫闇より確かでしっかりとした像を持った刀を具現化させられちゃあ苛立つのも無理のない話。あの人自身もその理由には気付いているんだろうが。
「今の貴方よりマシだ。毎度毎度そんな有り様で、不器用にも程がある」
俺は嫌みをたっぷりと込めて言ったが、あの人はただ軽く笑っただけだった。
「紫闇は僕より不器用だ。…でも、君はそんなに嫌いじゃないと思うよ」
「何の話?」
「紫闇に忠告してあげてくれないか?」
あの人は真剣に俺を見てくる。
「…助けてくれ、とは言わないんだ」
「忠告してくれるだけでいい。それで何かあったら、それは紫闇のミスだから」
俺はあの人に近付いた。
「貴方はそれでいいのか?」
「今まで、ずっとしてきたことだからね」
「じゃあ、貴方がすればいいんだ」
俺はあの人を睨んだ。何で俺があの人の願いを聞かなきゃいけないんだって、思ったから。
それに応えたあの人の言葉はとても静かだった。
「…できるなら、言わないよ」

そういってあの人が俺に見せたもの。それは侵喰の始まった腕。

「…知ってたのか?」
茉咲は。
あの人はそれに答えず、ただ苦笑しただけだった。
「茉咲は全部俺に押し付けて放棄(イ)った…貴方も」
「否定はしないよ」
侵喰の始まった腕。あの人の身体が、いずれ心すらも…歪んでいく。自我を無くし、狂った先はすぐ傍に在る。
「今夜までだ」
その時、あの人が意図した答えが俺には分かった。
「今夜までは、僕は僕の意志に従う……内緒だよ?」

その夜、あの人は紫闇に殺された。真実は、殺されたようにして『放棄』した。紫闇は自分が殺したと今でも思ってるはずだ。俺はあの人との約束を律義に守ってるわけじゃなくて、ただ真実を言うことの必要性を感じなかったから。でもその事実を紫闇が知った時、紫闇はどうやって壊れていくんだろうか。それには少し興味はあるけど。まだ今は…もう少しからかっていたい気分。だって、…嫌いじゃないし。
「―――見ろよ、俺の刀」
あの人を殺した夜。紫闇は以前よりすっきりとした日本刀を具現化できるようになっていた。それはあの人のものとも違う像。だが、しっかりと紫闇の手に馴染んでいた。
「…これなら、お前にも勝てる」
そう言って俺に刀を向けた紫闇を見た時、やっとあの人の言った意味が解かった。
『…でも、君はそんなに嫌いじゃないと思うよ』
あの人と同じ漆黒の髪に紫苑の瞳なのに。でも紫闇の方が感情に揺れて変化する瞳の光彩。はっきりと向けられる殺意。
「…どうかな?」
それが…妙に心地良かった。
その時俺は十八歳で、その時から俺と紫闇は因縁持ちになったというわけだ。茉咲が居なくなって、あの人が『放棄』して、それから俺があいつと出会う。それが、俺に起こった目まぐるしい変化の日常だった。それが今は…
「ただいま戻りました」
その反動で、まったくの怠け者になった気がする。
火滋の声に、俺はまた現実に無事帰還。手を軽く振ってそれに応じる。火滋の嬉しそうな表情。どうやら収穫はあったらしい。結構結構。火滋が俺の隣りに座って、獅戯に今日の出来事を話している。俺はそれを横目に、手元の珈琲を啜った。

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Ⅴ.“底”は“BORDER LINE” 3

正直こんなのは、まだ全然手緩い方。初めだったし、優しかった(?)んだと思う。大変なのはそれからで、茉咲の機嫌や気まぐれで何度も死にかけた。それなりに武器の扱いが安定してくると、それこそ殺る気十分な状態で俺にかかってきた。茉咲は俺が死なないようにやってるって言うが、どう考えてもそうだとは思えなかった。茉咲の言うことを鵜呑みにした俺の素直さをしばし呪った。今でも数え切れないほどその跡を残す傷。傍若無人な茉咲は基本的に容赦ナイから、その度に俺は傷を増やしていった。俺がそれなりに茉咲に食いついていけるようになったのは早い方だと思う。まぁ、毎回死ぬ気でやれば嫌でも身体が扱い方を覚えるんだけどさ。そんな気まぐれな茉咲が時々決まった時間に部屋を出て行くことがあった。それを珍しいと思ったのは事実だ。その時の俺はまだ若くて「野暮だな」と思っても、聞けるような無謀さがあった。今考えると、余計なことしたなぁ…としか思わないんだけど。
「なぁ、女?」
「ハズレ、男」
「げ、」
茉咲といるようになると、茉咲の趣味とか少しずつ見えてくる。俺に遊びとは言え手を出してるくらいだから、茉咲だったらアリだと思ったしそんなに驚きもしなかった。でも悔しいから嫌みのように俺は露骨に嫌そうな表情をした。でも茉咲には全然効果はなくて、ただ俺の反応に軽く笑って出ていった。
そんなことが続いていたある時、俺は初めてその相手にお目にかかった。
「篤抖っ…」
茉咲の驚いた顔。
「お前、あれほど一人で出んなって…」
「その一人でも、何とかなってるよ、茉咲」
漆黒の髪に紫苑の瞳。茉咲の相手は他でもない紫闇の兄・篤抖。この時の俺は紫闇のことを知らなかったから、後になって気付くことなんだけど。
でもパっと見弱そうだなぁ、なんて思ってたらあの人から茉咲と同じ煙草の匂いがした。
「彼氏?」
俺が茉咲にひやかして言ったが、茉咲はその一言を軽く鼻で笑って答えなかった。答えなくても解かるんだけど。明らかに俺との扱いの差が見え見えだし。何かそれが気に食わなくて、こっそり覗き見した(良い子は真似しちゃいけません)。
「…っ!」
「どこが何とかなってるだよ」
茉咲が腕を掴むと苦痛に歪む表情。傷口を掴んだ茉咲の手に、血が付いていた。
「…怒ってる?」
「…ったりめぇだろ。お前を傷つけていいのは俺だけだ」
茉咲の怖い顔。あんなに真剣に怒ってるのなんて初めて見た。
「…痛い、放して」
その声に茉咲が手の力を緩めて、あの人の腕を伝う血を舐めた。傷口に口唇を這わす。
「…っ…」
それは酷く優しい仕種。それは俺にだって伝わってくる。
結局、俺はそれっきりドアから離れた。その時俺は、何を想ってたんだろうか。
 
「…神津、」
獅戯の声に、思考を中断。
「あ――…」
あまり思い出したくないところまで思い出してしまった。俺の声に、獅戯は何事かと訝しい眼差しを送ってくる。
「珈琲、入れなおすか?」
俺はどれだけ回想してたんだろう。暖かかったはずの珈琲はすっかり温くなっていた。俺は獅戯の言葉に従って、カップを獅戯に渡した。
あの人は俺の苦手な部類の人だった。見るからに弱そうなくせに、まるで相手のことを何でも見透かすような目をしてる。それが嫌で力で捻じ伏せようとすると、その行為をとても哀れに見てるような気がするんだ。上手く言えないけど、計り知れないというか。俺のあまり好きじゃない意味で掴めない人。それがまさにあの人だったんだ。
「…思い出す人間、なんか間違ってるし…」
火滋との会話で、茉咲のこと思い出してたはずなのに。おかしいなと小首を傾げていると、
「気持ち悪い」
獅戯が俺の様子を見て一言。そして、目の前に入れなおした珈琲を置いた。獅戯はそれきりまた自分の仕事に戻ってしまったから、俺は引き続き思考を再開した。
 
「なぁ、別にアンタの行動を縛りたいっつーワケじゃないんだけどさ」
部屋から出て行こうとする茉咲の後ろ姿に、俺は言葉を投げた。
「行き先、言ってってくんない?」
「…今日は何だよ」
茉咲の反応は気分を害したとかそう言った類のものではなく、ただ純粋な疑問。
「予感すんの、アンタが死にそうな」
火滋が言う嫌な予感の的中率がいいことは、もうこの頃には解かり始めていた。初めは雨降りそうだなぁ…とか、その程度の話だったんだけどさ。
それに対して茉咲は面白そうな声だった。
「心配してんの?」
“俺の強さは身を持って知ってるくせに”とからかうように付け加えた。俺はそれに対し冷たい視線を投げてやる。
「心配っつーか…行き先言わないで死なれるのヤだし?」
何か気持ち悪いじゃん、そういうの。
「けど俺の行き先知ったところで、死ぬんだったら止めようがねぇじゃん」
「止める気ないし」
俺は即答した。
「だったら、わざわざ俺の死体見に来んのか?嫌みなやつだな」
「知らないところで死なれるよりマシだろ」
俺はじっと茉咲の様子を覗う。すると呆れたような表情がすっと真剣な表情に変わる。

「――――死なねぇよ」

そこには悪戯に笑う茉咲は欠片もなくて。
「そんなに弱くねぇもん、俺。それに…」
俺は次の言葉に何かを期待した。
「俺が居ねぇと、篤抖死ぬからな…そんなの赦さないけど」
途端にいつもと変わらない傍若無人な態度。嫌味とさえ取れるくらい茉咲は偉そうに笑った。
「あ、そ」
俺はその時、自分がなんて下らないことを言ったんだろうと気付いた。俺はそんな自分に呆れて、茉咲に背中を向けた。
「それに、俺は誰かに支配されるのは大嫌いでね。死ぬ時は…自分の意志で死ぬさ」
ドアの開く音。

「生憎、“俺”は俺だけのモンだ」

最後のそれは、まるで茉咲自身の独白みたいだった。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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